【移住雑記81日目】ネタばらしはまだ来ない

寒さもここまで本格的になってくると、負けまいという気持ちといいますか、決意のようなものが芽生えてくる。

天気予報なんか見ていても、本州各地の最高最低気温が二桁で映されるスペースに北海道は軒並み一桁台で、その一桁分の微妙な余白のせいで、余計に寒く見える。地域によっては「-(マイナス)」なんていう、私にとっては未知の記号が頭についています。

北海道の冬を生き延びてやる。

そんな決心を固めて寒さと対峙するわけですから、ある程度の寒さに至っては腹を据えて「よしよし、これなら生きていける」と最近は思えるのです。暖房のきいた部屋やモコモコのダウンの中でふふふと不敵な笑みを浮かべてみたりする北海道初心者の、私。

ただ寒さというものは身体に感じられるところ以外でも、世界に変化を及ぼすのだということをつい先日、ある場面に遭遇するまで知りませんでした。

先日、いつものように事務所で作業を終えた時のこと。夕方まで降り続いた小雨は止んだものの、夜の外気は冷凍庫のなかくらいキンキンに冷えている。うっひょーとか言いながら身を震わせながら駐車場をペンギンみたいに歩いていく。

――全然話変わるんですけど、ペンギンの歩く姿ってかわいいじゃないですか。でも、めちゃくちゃ寒いところを歩く人間もペンギンみたいな歩き方になるのって、なにか関係しているんですかね。関係ないですか?そうですか、残念です、とても――

話を戻すと、駐車場をペンギンさながら自分の車まで歩いていくわけです。するとどうでしょう。私の愛車は、フロントガラスから窓ガラス、黄色いボディは天井から横のドアまで、薄い白の氷の膜で覆われているではありませんか。

振り返ってみると、それなりに東京の冬も寒かったと思います。それでも車が凍る光景なんて滅多に見なかったから、驚くというより先に疑いました、ドッキリを。それになんかちょっとだけ、僕の車が氷の結晶の模様によってアナ雪に出てきそうな幻想的な雰囲気まとってる姿が少し可笑しかった。こういう時こそ写真のひとつでも撮っておけば良かったのですが、寒すぎてそれどころじゃなかったのでまたアナ雪仕様になったら撮っておきます。

ドアを開けてぱりぱり音が鳴った瞬間、たぶん自分めちゃくちゃいい表情をしていたと思います。車に入って、暖房を全開にしてしばらくの間、真っ白な氷の模様が描かれたフロントガラスを内側からずっと見ていました。10分くらいの間だったか、ぼんやりとこの先の長い長い冬に思いを馳せながら、なかなか解けない氷を眺めていました。ちょっとだけ趣深いアパートに住んでいることもあり、アパートも凍ってたらどうしようとか考えながら……

テッテレー♪ ドッキリ大成功~!

草むらの向こう側から、ネタばらしの看板を持ったペンギンたちが出てくる前に、アナ雪には絶対出てこない黄色い軽自動車は駐車場を後にする。

いよいよ今度は雪の足音が聞こえる。きっと大丈夫。大丈夫じゃない寒さだから、大丈夫な北の先輩たちにくっついていきます。


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