日本のノック式シャープペンシルのこと
ノック式シャープペンシルの「世界初」はどこが最初かはっきりとしたことはわかっていない。Montblanc(ドイツ)かCaran D'ache(スイス)かEdacoto(フランス)か、はたまた日本か、特許出願時期や製品の販売広告時期から調査しているが確証には至っていない。
日本のノック式シャープペンシルの特許出願は大正12年頃から出ているが、実際に製品として出ていたかは不明である。
製品の広告と実物が一致して手元にある、一番古い日本製ノック式シャープペンシルは「ラッシュ モーターペンシル」である。昭和9年(1934年)発行の”大東京文具商工名鑑”に広告が掲載されている。メーカーは丹羽製作所で、大正末期から「トーヨー」というブランド名で、シャープペンシルを製造している。
ノックした感触はガシャガシャと少し重たい感じである。
機構を探るべく先端を回して取ってみると・・・、芯をホールドする部分が見当たらない。どうも先端から四分の一くらい入ったボディの中にホールドする機構があるようだ。
このラッシュ モーターペンシルは箱、取説付きで入手したのだが、箱には"放送記念"、シャープペンシルのボディには「JOOK」と刻印されていた。これを検索すると放送局所の呼出符号がヒットし、JOOKはNHK京都の呼出符号であった。この開局年が1932年なので、このシャープペンシルも1932年に製造されたものだと思われる。
また、一緒に付いていた保証書には「黒田生々堂」と書いてあり、現在でも大阪にある事務用品会社であることがわかった。
取説にはパテントナンバーと使用方法、実際に親指で押して芯が出ることがわかる絵などが載っている。
昭和初期のシャープペンシルは回転式の2色シャープが多く作られており、ノック式はまだあまり広まらなかったようである。また、芯も柔らかく折れやすかったため、芯が詰まるなどの故障が多かったのかもしれない。現代のようにノック式シャープペンシルが普及していくのは、1960年のポリマー芯が登場した1960年以降となる。