日本のシャープペンシルの歴史2(日本上陸前夜)
はじめに
前回は日本でのシャープペンシルの呼び方の記事を投稿いたしました。大正時代のシャープペンシルのことを書いたのですが、その前、日本に輸入されたころ、さらには日本に輸入される前のシャープペンシルのことも書きたいと思い、前後してしまいますが、シャープペンシルが世界で産声を上げた時代のことを今回投稿させていただきます。
また、「ぺんてる シャープペン研究部」でも、シャープペンシルの歴史のことが投稿されていましたが、その冒頭部分の所をもう少し詳しく紹介していければと思います。
世界初のシャープペンシル
wikipediaには「確認される最古のシャープペンシルは、1791年に沈没したHMSパンドラから見つかった。実際の発明はこれより前に遡ると考えられる。」とあります。
この文の元になっている雑誌「National Geographic Magazine, Vol. 168, No. 4 (October 1985)」を前に見たことがありますが、シャープペンシルというよりか、芯ホルダーに近かったように記憶しています。
実際に商品として世の中に初めて売られたシャープペンシルは、1822年、イギリスで生まれました。サンプソン・モーダンとジョン・アイザック・ホーキンスが繰出式のシャープペンシルを発明し、特許を出願しました。
その後、モーダンはホーキンスの特許権利を買い取り、1823年6月9日、ロンドンにサンプソン・モーダン社(S. Mordan & Co)を設立し、シャープペンシルを売り始めました。
約200年前、日本はまだ鎖国をしていた江戸時代の文政6年になります。こんな時期にすでにシャープペンシルが発売されていたとは驚きです。
モーダン社のシャープペンシルは金属で作られており、軸の後端には宝石や貴石が嵌め込まれているものもありました。
その時代のシャープペンシルのひとつを紹介します。
このシャープペンシルは1830~1836年に作られたものです。先端が収納できるタイプで、軸についているスライダーを動かすと、先端が出てきて、先端を押さえながら軸を回すと芯が出てきます。戻すときは軸を逆に回し、出ている芯を押し込むと戻ります。1920年頃までこの機構は使われており、中押し式と呼ばれています。
先端を出した時
先端を収納した時
全体に模様が彫られており、軸の後端には黄色い宝石が嵌め込まれています。
後部の装飾
後端の黄色い宝石
1840年代からモーダン社は、人形、動物、日用品、武器や楽器など多種多様な形状や、機構の異なったシャープペンシルを数多く製造していました。
(詳細はTHE KB COLLECTION OF PENCILS参照)
19世紀のシャープペンシル
この時代のシャープペンシルはあまり実用的なものではなく、アクセサリー的な要素が強かったようです。そのため、宝石やエナメル画をあしらった煌びやかなシャープペンシルも多く製造されていました。それにチェーンをつけて身につけたり、ネックレスのように首から提げたり、手帳を書くために携帯したりしていたようです。
ペーパーナイフとセットのシャープペンシル
花のエナメル画が施されている
ネックレスがついたシャープペンシル
軸も金属製の物が多く、芯を出す機構は単純な物でした。しかし、スライド型、伸縮型、テレスコピック型、ドロップ型など様々に工夫されたシャープペンシルがありました。
・伸縮型シャープペンシル
シャープペンシルの先端部が収納されていて、根元部分を回すと出てくるものや、後部を引き出すことにより、軸が長くなるものなど、色々なタイプがありました。
根元部分を回すと先端部が出たり入ったりする
先端を出した時
先端を収納した時
・テレスコピック型シャープペンシル
後部を引き出すと、同時に先端部も出てくる仕組みになっているシャープペンシルです。軸の長さが大きく変わるので、色々な形状のシャープペンシルに使われました。
筆記時の状態
収納時の状態
・ドロップ型シャープペンシル
後部を押すことにより、先端部が自重で出てくる仕組みのシャープペンシルです。先端部を引っ込める時は、先端部を上にして、後部を押すと戻ります。
先端を出した時
先端を引っ込めた時
このようにシャープペンシルが誕生した当初は、実用品というよりも、アクセサリーなどの装飾品のように扱われていました。そのため、色々な形状や装飾が施され、小さく持ち運べる工夫がされているシャープペンシルがほとんどでした。現在の実用品として扱われるのは20世紀に入ってからになります。20世紀に入るとさらに、エボナイト、セルロイドなどの材質をボディとして、多彩な色のシャープペンシルも出始めました。次回は19世紀から20世紀にかけて日本にシャープペンシルが輸入されたころのことを投稿しようと思います。