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その時が来たら、きっとわたしは泣くと思う

ミツのことは、知り合う前から知っていた。SNSで流れてくるイベントの登壇者だったし、共通の友人も複数いたから。色気がある人なんだろうと思っていた。なんとなく。生き方とか、目つきとか、肌質とか。実際に会ってみると、本当に色気があって、存在感がどっしりしているのでちょっとこわいけれど、いざ話してみると気さくで、笑顔がかわいかった。

私たちは友達になった。そしてミツがわたしの部屋にきて言った。「セックスしよう」と。わたしだって、したかった。ただ単に、動物として、目の前に色気のある男がいたら、ヤりたいと思う。だけど、わたしはミツと友達でいたかった。断っても無駄なのかもしれない。男は男だから。でもわたしは、ちゃんと答えようと思った。ちゃんと答えようと思ったのだ。

「わたしもしたいよ。ミツ、セックスうまそうだし。だけど、ここでしちゃうと、ややこしいことになる。SEX makes things complicated。わたしはミツと友達でいたい」

ミツは、なし崩しにしようとしたりしなかった。わたしは、男が性欲を優先したために壊れた人間関係の墓標の数々を心に思い浮かべた。そこに新しい墓標が加わらなかったことが、心の底から嬉しかった。そしてわたしは泣いた。頭の芯が痺れるような鮮烈な涙だった。

そんな時が来たら、きっとわたしは泣くと思う。

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