松島倫明インタビュー 〜どの未来へ向けて「実装」していくのか〜 中編
*前編はこちらより。
今ようやく、「リアルでできること」と「オンラインでできること」のガラガラポンが始まった印象
大東 それはすごくよくわかります。僕も最近になって「太陽が気持ち良いな」とか「植物が綺麗やな」とか、そういうことに対する実感がすごく増したんですよね。松島さんもテクノロジーを生業にされている一方でトレイルランニングをされていますし、いつもナチュラルなものに繋がっている印象があって。
松島 まさにその話ですよね。「テクノロジーは何をエンパワーするのか」をもっと考えていかなきゃいけない。効率化を推し進めていくのか、あるいは人間の持つ生命性をエンパワーしていくのか……そこには大きな違いがある。そもそもインターネットの使い方すらまだ分かっていない、という見方もあります。後の歴史書には、「インターネットは1990年代に始まったけれど、2020年の時点ではまだ何も起きていない」って書かれるかもしれない。今ようやく、「リアルでできること」と「オンラインでできること」のガラガラポンが始まった印象で、そこでやっとインターネットでできることの意味がリアルとの間で相対化されるんです。
大東 なるほど。
松島 『WIRED』の創刊メンバーであるケヴィン・ケリーはかつて、「これから100万人のコラボレーションが起きる」と言いました。その時点で世界に張り巡らされたインターネットの意味が実現されるんだ、と。
松島さんによるケヴィンへのインタビュー。
ネヴァダの砂漠で開催されてきたバーニングマンも今年はオンラインで開催されますし、「インターネット空間で巨大な人形を焼くってどういうこと?」っていう疑問はあるにせよ(笑)、そうやってみんながオンラインでの可能性を本気で探りはじめている。実際にトライしてみることで、オンラインとリアルの峻別がはっきりしますよね。
大東 人の繋がりっていう意味でも、今は家族と向き合う時間がたくさんできていますよね。
松島 そう、これは戦後もっとも大きなターニングポイントになる可能性があります。そういえば『37 Seconds』は、テクノロジーの話こそ出てこないんですが、逆にリアルの部分が突き抜けている。これから世界中で「移動」にまつわる話がたくさん出てくると思うんですが、あの作品の中でも、車椅子でビャーッと走る場面に僕たちはカタルシスを覚えるわけで、じゃあそれって何だろうって。
「なぜこのテクノロジーを受容するのか」を考えさせるのは、やっぱりメディアや表現の役割なんです
大東 僕は以前、『プルートゥ』(手塚治虫の『鉄腕アトム』に含まれる「地上最大のロボット」の回を原作とした浦沢直樹の作品)の舞台でロボットの役をやらせていただいたんですが、その中で僕が養子として子供のロボットをもらうんですよね。そこで、仕組みとして感情はないはずのロボットが感情を持ち始めてしまう。そこで面白いのは、自分もできるだけ無機質にロボットを演じようとするんだけど、むしろ普段の自分の方が省エネに生きている気がしてきてしまって。より感情について考えるきっかけになりました。
松島 いやー、ロボットの役を演じることがきっかけになるなんて貴重な経路ですね。
大東 れはまた違う話なんですが、僕が好きな小料理屋では、お酒を出す時に酒蔵のエピソードからその背景を話してくれるんですよ。そこで呑むと、物語が脳を流れてきて、美味しいお酒がさらに美味くなる。
松島 まさしく、テクノロジー自体は無味乾燥で、そこにナラティブを与えるのは人間なんですよね。そこで、「なぜこのテクノロジーを受容するのか」を考えさせるのは、やっぱりメディアや表現の役割なんです。今は「オンラインでフェスをやります」って言われても、それは本物じゃない、と思うかもしれません。でも歴史を辿ってみれば、150年前にレコードを蓄音器でかけた時もボロクソに言われたわけで。要は、それまで生で聴くのが当たり前だった音楽を冒涜しているじゃないかと。ただ、今となっては録音された音源を家で聴くことは普通だし、それで音楽を冒涜しているとは誰も思わない。そうした音楽によって感動もするし人生も変わる。それに、だからこそライブの価値がますます高まっています。
HIKARI 私は週に2回ダンスのクラスをとっているんですが、先生がすごく有名な方なので世界中から何千人も生徒が集まるんですよ。で、もちろん彼も今はスタジオを使えないので、自宅で「ヘイ、ガール!」みたいな感じでホウキを振り回しながら踊っていて(笑)。この前はインスタライブ上でシンガーのPiNKとのコラボがあって、そういうサプライズがあるとめちゃくちゃ盛り上がるんですよね。それって、今こういう状況になったからこそ生まれた興奮で、私もテクノロジーをすごく身近に感じられました。あと今、LAは空気がすごくきれいなんです。私は20年以上ここに住んでるんですけど、一番きれいかもしれない。
松島 これからは移動と物流を分けて考えるべきかもしれませんね。移動して大切な人に会える、っていうのも僕たちが発明した手段ではあるんですが、外出自粛になってから北インドの街でヒマラヤ山脈が見えるようになったとか、ヴェネチアの運河の水が浄化されたとかっていうニュースを耳にすると、全体のバランスをもう一度考える契機になる。つまり、今まではテクノロジーによって地球が汚されてきたけれど、今度はテクノロジーによって地球を汚さずに済んだ、っていう逆転ができる可能性があって。ただ、このZoomにしてもデータセンターが湯水のごとく電気を使いまくっている事実もあるので、まだまだ課題はあるんですけど。
大東 ただ、身体性を伴わないものが、はたしてホンモノの体験になりうるのかということは、つい考えてしまうのですが。
松島 『37 Seconds』で大東さんが出てきた瞬間に物語がドライブしたように、そこの重要さはよけい際立ってくるんだと思います。人間と自然の関係って、本来面倒くさいもので生産性がない。例えば、僕は庭の雑草を抜くことがマインドフルな時間なんですけど、それって別に誰のためにもなっていない(笑)。でもそういった身体性や自然がもつ「無駄」というものが、もっと貴重になってくると思います。一方で、例えばこの200年くらいのタイムラインで見ると、鉄道が今でいうインターネットだったわけです。あの作品でも、ユマは鉄道と飛行機を使ってタイへ行きますが、その旅によって本人の感情が大きく動かされた。そもそも、移動という身体的な体験の面で言えば、列車で移動することは徒歩に比べれば身体性が低く、そこにもテクノロジーが入っていますよね。
*中編ここまで。後編は次週公開予定です。
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