【Story】ペットコップ

Story... それは短い物語。別の箇所にすでに掲出しているものですが、こちらにも。

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時代は空前のペットブーム。

だけど住宅の事情でペットを飼えない人もいる。

そんな人たちのために開発されたのがペットコップだ。

ボクもジョンと名付けたペットコップを飼っている。

一見、透明な他のコップと変わりはないが、中身がこぼれないように絶妙に形状を変えたり、ほんのりと色を変えてテレたり、青ざめたりと喜怒哀楽の感情を表現する。楽しいときには踊ったりもする。

特技は花の水やり。毎日、観葉植物に水をあげてくれて、とても助かっている。

でも、一番の特徴は、食事をすること!かな。

お腹が空き過ぎると、その形状を維持できなくて、中に注いだものがこぼれてしまう。

そして水浴びが大好きで、一日何度か洗ってあげないといけない。

面倒くさがりの人には向かないかもしれないが、そういう人はもともと犬や猫などの生き物ペットを飼うことも向いていないということだから、生き物を飼う前のトレーニングにも使われているという。

何より、「面倒くさい」は愛着や愛情につながっている、とボクは思っている。

他にいい面もあるしね。

例えば、長期の旅行に行くとき、コップならふわふわのタオルのベッドにくるんで連れていけるし、乗り物で別料金も取られない。お留守番させて、お腹が空き過ぎて形状がくずれてしまっていても食事を与えれば、また元のコップに戻る。

本当に可愛いやつだ。


ある日、やっぱり1個でお留守番するのは寂しいだろうと思って、もう1個ペットコップを買って帰った。

ジョンも大喜びしてくれた。

エバンと名付けた新しいペットコップとさっそく2個でじゃれあって遊んでいた。


でも1週間後、突然ジョンはボクの目の前で、高いとこから飛び降りて、パリンッ、と自ら割れてしまった。

「なぜなんだ!」

ボクはこの数日、ジョンの元気がなかったことを思い返していた。

きっと疲れているんだなと思って、ジョンがはやく元気になるようにエバンに働いてもらっていた。

その時、胸の奥に何かひっかかるものがあった。それは段々大きくなってはっきりとした後悔に変わっていった。

まだ捨てていなかったエバンが入っていた箱の底から取扱説明書を引っぱりだし、最後のページにその文を見つけた。


【注意事項】

ペットコップはとても焼きもちやきです。1人暮らしの方は、基本1個飼いをおすすめします。どうしても複数個飼う場合は、同じ量の愛情を注いでください。


ボクは飼い方を間違ったんだ。エバンがはやく家になれるようにと、エバンでばかりドリンクを飲んでいた。

ジョンの元気がないのは、そのせいだったんだ。

ジョンは寂しかったんだ。ごめんよ、ジョン。


ボクはジョンのカケラを拾い集めた。だけど、捨てる気になんてなれなかった。

元のように動けなくても、テレた笑顔が見られなくてもいい。

そう思ってボクは送りだした。


数週間後、ジョンが帰ってきた。

宅配の箱を開けると、大切にふわふわの紙にくるまれて眠っていた。

まぶしくて目をあけたジョンは、「やあ!」というような、ひきつった笑顔をむけてきた。

そのカラダのところどころに金の線が入っている。

ジョンが「どう?」という表情をしたのでボクは

「最高にカッコいい!」と笑った、けどすこし涙ぐんでいた。

陶器じゃなくてグラスだけど、日本の伝統の「金継ぎ」にボクはジョンを託してみたのだ。

よかった、本当によかった。

以前のようになめらかな表情はできないけど、またジョンと一緒に暮らせる。

エバンも興奮してジョンのまわりを跳ねている。


あれからボクは、ジョンとエバンを交互に使ってドリンクを飲んでいる。

もちろん、同じ分の愛情を注いで。

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