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AI時代に、書くことの意味を考える
私たちが日々書いている文章の多くは、かつて手書きが主流でした。
しかし、パソコンやスマートフォンが普及し、今では誰もが簡単に文章をデジタルで綴ることができます。
そして、今、新たな変化が訪れています。
AI、つまり人工知能が文章を「書く」時代になってきているのです。
ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、文章作成の在り方は大きく変わりつつあります。ブログ記事や商品説明、SNSの投稿文にいたるまで、AIが代筆するケースは増えてきています。
(AIを用いた文章作成には賛否両論ありますが、誤解のないように言っておくと、私はAIを使って文章を書くのはよいことである、と考えています。)
では、このような時代において、「人が書くこと」にはどのような意味があるのでしょうか。
本記事では、AIに任せられる部分、任せられない部分を考えながら、書くことの本質について掘り下げてみたいと思います。
AIが「書く」ということ
そもそも、AIが文章を生成する仕組みとは、大量のデータを学習し、そこから統計的に最適な単語や文章を選び取るものです。つまり、AIが書く文章は過去の膨大なテキストの蓄積に基づいており、それを組み合わせながら新しい形にしているのです。
そのため、AIが作る文章は整っていて読みやすく、一定の品質を保ちやすいという特徴があります。
しかし、そこには「経験」や「感情」といった、人間ならではの要素が欠けていることも少なくありません。
たとえば、誰かの人生を変えた本の感想や、旅先で感じた感動などは、単なる言葉の組合せでは表現しきれないでしょう。
私が最近読んだ本の、読後から数日経った今でも胸をざわつかせる没入感や、子どもの顔に日差しが降り注ぎ、眩しそうに目をこする姿に感じたなんともいえない愛おしさも、AIは表現できません。
AIはそれらを「模倣」することはできても、実際に「感じる」ことはできないからです。
また、AIが生み出す文章には、しばしば独創性や創造性が欠けています。既存のデータに基づいているため、新しい視点や斬新なアイデアを生み出すことが困難であるという点もまた、AIが苦手とするところと言えるでしょう。
人が書くことの価値
では、AI時代において、人間が文章を書く価値とは何でしょうか。
それはひとえに、「個人のリアルな経験や思考を言葉にすること」にあります。
たとえば、日記やエッセイを書く行為は、単に情報を伝えること以上の意味を持ちます。
自分の気持ちを整理したり、考えを深めたりするプロセスそのものが、人間にとって大切な営みとなるからです。
私も30代半ばにして初めて「内省」というものを知ってから、日々真っ白なノートに自分の言動や感情を書き出すことで、内なる自分に気づき、理解できるようになってきました。
また、書くことは「誰かに届けること」でもあります。
AIが作る文章には個性や魂は宿りにくいですが、人が書いた文章には、その人自身の体温や視点が反映されます。
たとえば、親が子供に宛てた手紙、友人へのメッセージ、小説家が紡ぐ物語ーーそれらは単なる情報ではなく、人間同士の心をつなぐものです。
AIと共存する書き手の在り方
もちろん、AIの力を活用することは有益です。文章作成の補助ツールとして、リサーチや構成の下書きにAIを使うことは効率的で、むしろ賢い方法であるとも言えます。
しかし、「すべてAIに書かせてしまう」ことには慎重であるべきです。
なぜなら、それは「自分の言葉で表現する」という人間らしい営みを放棄することにもつながるからです。
もし、すべての文章がAIによって作られるようになれば、「書く」という行為そのものが衰退し、やがて人間の思考力や想像力にも影響を受けてしまいかねません。
したがって、AIを活用しつつも、「最後は自分の言葉で仕上げる」姿勢が重要です。
たとえば、AIにアイデアを出してもらったり、文章の整理をしてもらったりしながら、最終的な表現は自分自身の手で整理する。
こうした使い方なら、AIと人間の強みをうまく組み合わせることができるでしょう。
未来に向けて
これからの時代、「書くこと」は単なる技術ではなく、より個人的でクリエイティブな行為へ進化していくのではないでしょうか。
AIが事実や情報を整理し、機械的な文章を生み出す一方で、人間は「自分の言葉で何を伝えたいのか?」をより意識するようになるでしょう。
さらに、AIによって大量の情報が生み出される中で、「本当に価値のある文章とは何か?」を問い直す機会が増えるかもしれません。
そうすれば、そう遠くない将来、量よりも質、スピードより深みが求められる時代がやってきます。
AIが進化し、ますます私たちの生活に浸透するなかで、「書くことの意味」も変化し続けるでしょう。
しかし、どれだけ技術が進歩しても、「自分の言葉で伝えたいことがある」という思いは、決して消えることはありません。
私たちは、AIに書かせることもできますが、同時に「書くことを選ぶこと」もできます。
そして、その選択こそが、私たちの言葉に価値をもたらすものであると信じています。
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