嗅覚
わたしの住んでいる場所は、23区だけど東京の端っこだし、駅からも遠いし、都心に出るまでにそこそこ時間もかかるよう場所だ。
近所には小学校もあるので、子供たちの登下校の時間は、少し賑やかになるが、静かに感じる時間の方が多く、住宅街のようで、はたまたかなり前はちゃんとした商店街であっただろう、看板の朽ち果てたお店が多く残っていたりもする。
何せ年配の方が多く、古い一軒家ばかりの区域が目立つ。
空き家なんかも多い。
スーパーや、バス停や、立ち止まっていると、よく年配の方に話しかけられる。
ちょうど去年の今頃だったか、その時わたしは無職だったので、よく土手を散歩していた。しばらく歩いた後いっちょ前にストレッチしながら休憩していたら、おばあさんに話しかけられた。
今日は富士山見えてるかしら?
今日は曇っているので見えてないですね。
そのまま30分くらい立ち話をし、帰りには近所のスーパーに連れてかれ、お礼だとパンをたくさん買ってもらった。
そんな感じなので、偏った表現をするとインタグラムには無縁な町だと思っていた。
普段は通勤や日常的な買い物などは、バスに乗り駅まで行っている。
でもそこはやっぱり東京で、駅は人が多く便利だけど、なんだか疲れる。
そして余計なものを買ったり、外食してしまったり、ついつい無駄使いしてしまう。
いつものように、なんとなくグーグルマップで近所を探索、何度見たって変わらないと思っていたけど、この数か月、私が真面目に社会人をしていた間にもこの静かな町にはちゃんと変化はあった。
なんだかよさげな古民家カフェが出来ている、しかも徒歩圏内。
インスタグラムもやってるから、事前に好みかどうかも確認できた。
お昼ごはんは決まった。
ホットドックと珈琲がおいしかった。
8月にとても気に入っていた喫茶店が閉店してしまったこともあり、
徒歩圏内においしい珈琲が飲めるお店が発見できたことに、静かに歓喜し店を後にした。
本日の本来の目的は、パンとバナナを買うことだっだので、いろいろ嫌でここ数年は利用していなかったローカル鉄道沿線のスーパーへ向かった。
やや割高だが、品揃えは豊富で、おばあさんにパンを買ってもらったのも、そのスーパー併設のパン屋だった。
品揃えの誘惑に負け、パンとバナナ以外にもいろいろ買ってしまった帰り道、ギャラリーの看板を発見。
思わず二度見、なんだか小雨が降ってきたし、冷凍食品もあるからあまり寄り道はしたくないと思いながらも、看板の道案内に沿って足は勝手に進む。
本日二度目の静かな歓喜。
今は何人かの作家が展示を行っているそう。
近所で見たことのない、センス良いおじいさんが珈琲を飲みながら、展示品について説明してくれた。
なんか素敵な古い置き時計や、年代ものと思われるきれいなグラスもある。
うううう、もっと見たいが冷凍食品が気になるので、またあらためて足を運ぶことにしよう。
それにても、あんな素敵な空間がこれまた徒歩圏内あるとは、わたしの住む町も捨てもんじゃないぞ。
もう少し住んでみてもいいかも。
帰宅後、すぐパソコンを開きギャラリーを検索。
地元紙で、おじいさんの簡単な経歴やギャラリーを開いた経緯などの記事を発見。
おじいさんは、六本木でデザイン事務所を経営していた方だった。
現在のギャラリーは、区内で1年掛けて場所に決められたそう。
インスタグラムもやっている、流石です。
骨董市にも出品したりしているよう、どうりで好きな雰囲気だと思ったわけだ。
自分の好きなものに対しては、異常に嗅覚が働くのは我ながら感心する。