トクホも自主規制?!新しい公正競争規約の施行はじまる!

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 消費者庁と公正取引委員会は、6月に公示した特定保健用食品(トクホ)の「公正競争規約」を8月21日付で施行開始した。また、トクホ許認可を受けた販売業者各社は、規約の実際上の運用を行う「特定保健用食品公正取引協議会」を新たに設立し、消費者に誤認を与える表示・広告を排除することでトクホ業界全体の健全化を目指すことを発表した。

 なお、今回施行された規約では、容器包装など食品表示と広告のそれぞれで、

1)必要表示事項
2)任意表示事項
3)誇大表示の禁止
4)不当表示の規制

…などを規定するが、その詳細については、協議会側の策定する「運用基準」と、消費者庁および公取が認定する「施行規則」により定められることになる。

 ただし、規約の施行後も広告に関する部分については、企業側の周知および準備にかかる一定期間が必要なため、告示から6ヶ月間は施行が猶予されるとしている。


発足からまもなく30年、何故いまなのか?

 1991年の栄養改善法(2015年の健康増進法施行に伴い廃止)の改正により、健康食品や栄養食品の「保健機能」に新たな表示許可を与える「特定保健用食品(トクホ)制度」が発足してから来年で30年目を迎える。しかしながら、業界はじめての自主規制となる今回の公正競争規約施行までに、これほどの時間を要したのは一体どういう理由によるのだろうか?
 
 現時点(2020年8月21日現在)で許可件数が1,074件を越えるトクホだが、2015年4月に新しい機能性表示食品制度が発足すると、届出にかかる時間や費用がトクホに比べて格段に有利な機能性表示は、本年6月時点でその受理件数がついに3,000件を越えた。また、その市場規模も年内に3,000億円に達すると予想(㈱富士経済調べ)されており、これは2013年以降6,000億円規模で頭打ちのトクホに迫る勢いである。その意味では、トクホ市場自体のさらなる成長やそれに伴う不当表示の著しい増加が見込まれるわけではないが、だとすれば、どうして今このタイミングで、業界が「最大50万円の違約金」を課すほどの厳しい自主規制を推進しなければならないのか疑問も少なくない。


機能性表示食品規制への流れ?!

 他方、たった5年でトクホの3倍もの受理件数を達成した機能性表示食品は、その機能性別に見ても「脂肪or糖の吸収」、「血圧」、「腸内環境」等の分野ですでにトクホのシェアを侵食し始めており、さらにトクホでは認められていない「膝・関節」、「視力」、「睡眠」、「認知・記憶」、「免疫」の分野にも次々と新製品が登場するほどの百花繚乱ぶりである。

 また、行政からの「許認可取得」を前提とするトクホと違い、「事業者の自己責任による届出」を前提とする機能性表示は、参入する企業側のハードルも低いため、食品表示や広告における不当表示の発生事案も格段に多く、それを指導する行政側の負担も飛躍的に増大していることが考えられる。(逆に、トクホは元々事業者に対する「許認可縛り」が強いためか、不当表示事案の発生件数はそれほど多くないと見られる。)
 
 つまり、現実を冷静に見れば、より厳しい規制が必要なのはむしろ機能性表示の方であるはずだが、そうなっていない所に行政側の隠された意図が垣間見えるのである。


運用の「業界任せ」が目的

 機能性表示のように、届出の簡素化で恩恵を受けるのは事業者側だけではない。受理する行政側の作業負担も本来なら相当軽減されて然るべきだが、急速な届出件数の増加は、その運用状況の監視や必要な行政指導にさらなるリソースの負担を強いるのも現実である。これは受理された商品や使用する広告のバラエティーが増えれば増えるほど、行政側に重くのしかかる。

 じつは、これを避けるのに最も有効な手立てこそ「民間に任せる」ことであり、わかりやすく言えば、消費者団体を使った違反者の摘発や訴訟提起(いわゆる「クラスアクション」)と同じ発想に基づくものである。実際に、たとえ業界内輪の自主規制とはいえ、違反者に対して行政指導や処分を行う主体は、あくまで消費者庁や公取になる。

 これらの状況から総合的に判断すれば、今回のトクホ業界による「公正取引協議会」の設立と「公正競争規約」の施行とは、いずれ本丸である機能性表示食品の、「業界による自主規制」に向けた布石として、まずはトクホ業界でのルールづくりとその運用のための「ひな型づくり」を目指したものと思われる。少々まわりくどい方法ではあるが、行政側が本来の意図を明かすことなく、規制の輪を狭めていくのに良くある手法と言えなくもない。

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