30歳になってからバンドでツアーをやることにした話(中編)
「そんなこと言ってたらあっという間にババアだよ!」
前に踏み出せない主人公に対して、主人公の友達がそう言い返していた。
あの漫画のタイトルは一体何だったっけか、すぐに思い出せなかった。
僕も気を抜いていたらツアーが終わってしまう気がしたので、通勤の電車に乗りながらこの記事を書いている。
僕は普段、会社員として働きながらツーピースロックバンド「カセン」でギターボーカルをしている。所謂週末バンドマンというやつだ。
タイトル通り、30歳になってから東名阪を含めたツアーをやることにしたという話、今回は中編。
自身のバンド「カセン」と現在開催中のツアーについては前編記事をご確認頂きたい。
▼前編記事はこちら
初のツアーをやることになり、どの街に行くのかを検討を始めた。
僕は学生時代から現在にかけてバンドをやっているものの、遠征やライブハウスでの企画はまだ経験したことが無い。
遠方のライブハウスにどうやって出演を相談するのか、どれくらいお金が掛かるのか、そもそも働きながら実現出来るのか…
完全に経験やノウハウがない所からのスタートとなった。
ひとまず、いつも出演しているライブハウスの店長さんに相談を行うことにした。
その際に初めて知ったのだが、ライブハウス側でツアーの行き先や日程をまとめて用意してくれる方法もあるらしい。
僕達はその方法を取らず、東京と名古屋のみ出演を受け入れてくれる場所を紹介してもらうことにした。
関西圏は普段お世話になっている場所をチョイス。
地元加古川や京阪神でよく出演しているライブハウス、あとはYouTube配信も盛り込もうという話になった。
Twitterのフォロワーで遠方から応援してくれている方もいるので、その方々も何かしらの形でツアーに参加出来るようにしたかった意図がある。
2023年の年明け頃から調整を始めたものの、4〜6ヶ月の予定を組むのは大変だった。関係者と何度もやりとりをする必要があったという意味でも、仕事を休むという意味でも。
ただ、スケジュール表に予定が沢山入っていくことにワクワクもしていたし、フライヤーに載せる日程が一つ一つ決まっていくのが嬉しかった。
2023年4月22日、記念すべきツアー1発目は地元である兵庫 東加古川STARDANCE(通称:スタダン)にて行われた。
1階が駐車場、2階がライブハウスという地方のファミレスみたいな構造の建物で、お世辞にも駅から近いとは言えない場所にある(徒歩で15分)
地元唯一のライブハウスで、僕が初めてライブをした場所でもある。
スタダンは高校生の頃によく利用していたが、チケットは片手で数える程しか売れなかった記憶がある(学生のコピーバンドで更に友達も居なかったので当然の結果ではあるが…)
気が付けばあの頃から歳も重ね、少しは友達や知り合いも出来たように思う。大学時代の先輩、以前一緒にライブをやったバンドマン、ライブ友達…
これまで出会った人達が遊びに来てくれて、結果としてチケットは10枚売れることとなった。
ライブハウスに貼られた自分達のツアーポスター、客席で応援してくれる人達の顔、いつもの見慣れた場所があの日だけは少し違って見えた気がした。
物販もかなり売れて、ツアー初日は最高のスタートになったのである。
ふとこんなことを思った。あの頃、僕と同じように音楽をやっていた友達や先輩後輩は、今も何かしらの形で音楽を続けているのだろうか…と。
音楽を辞めた人、音楽を聴かなくなった人、その人達に対して 「飽きたんだろ」とか「その程度のものだった」と言って片付けてしまったらそれまでだ。
でも僕はそんな心無い言葉ではなく「その人の中で役目を終えた」という表現が一番しっくりくると思っている。
そういう意味では僕の中で「バンド」や「音楽」はまだ役目を終えていない。
2023年5月13日、ツアー2発目は愛知 栄Party'zに出演。
僕は機材車に乗って知らない街のライブハウスへ行くことにちょっとした憧れを持っている。目的を持って「旅」をしている気分になれそうだし、その日の高速道路の景色はきっと特別なものになるに違いない。
今回は普通に新幹線で行くことになったが、いつかはその憧れを叶えたいと思う。その時は軽自動車でもいい。
過積載のカートを引きずり、眠い目をこすりながら朝の新幹線に乗り込んだ。名古屋に行く手段は色々あるが、新幹線を利用すると「想像より近所なのではないか」と錯覚する。
この日は東京・新潟・名古屋と各地のバンドが集まったイベントで、僕達にとって初めての遠征だった。
各地のバンドが集まったイベントは空気感が違う。上手く言葉に表すことが出来ないが、どこか張りがあるように思える。遠方からこの場所を目指し集まってくるのだから、きっと誰もが何か1つでも多く持って帰ろうとしているのだろう、それは僕も同じ気持ちである。
初めての土地でのライブは集客0人も十分あり得たが、有難いことにtwitterのフォロワーや知人が足を運んでくれた。おかげさまで自分達らしいライブが出来たと思う。
夜通しの打ち上げにも参加したが、バンドマンは中々無茶な飲み方をするなとほろ酔いになりながら笑った。来てくれたお客さん、共演したバンドとまた会いたいと思った夜だった。
2023年5月18日、ツアー3発目は京都 二条nanoに出演。
この日は平日だったので会社に有休申請を出して休みを取った。
色んなライブハウスに出演していると「ここは他のライブハウスと違うな」と感じる時が稀にある。そういう瞬間というのは大体決まっていて、演出や表現を追求している人や、限りある予算や資産の中で工夫している人、一つ一つのことに意味を持たせようとこだわっている人がいる時だったりする。
一つ一つのイベントに対して毎回欠かさず長文の所感を掲載しているホームページ、高クオリティなライブ配信を積極的に行っているYouTubeチャンネル、「コーヒー」という文字があるドリンクメニュー、リハーサルの度にサウンドに関する細かなアドバイスを伝えてくれる店長さん…etc.
そこに居る人がその場所をオンリーワンな場所にしてくれるし、こだわりや熱量がある方がしたことは、どんな些細なことであれ何かしらの形で浮き出てくるものだと思う。そう感じさせてくれるところが京都nanoを選ぶ理由なのかもしれない。
…とカッコいいことを言ってみたが、京都には全然知り合いがいないので出演する時はいつも閑古鳥が鳴いている。今回もお客さんを呼ぶことが出来なくて申し訳ない気持ちになった。
しかしYouTube配信の方は好評だったようで、視聴者が10人もいたらしい。そして人生初のスパチャを貰った日にもなった。
スタッフの方々と共演者の方々と少し話した後、そそくさとライブハウスを後にした。最終電車に乗り込んで、次の日は普段通り仕事に行った。
以前よくライブに来てくれていた京都のお客さんがいたが、コロナ禍になってからはめっきり会えなくなってしまった。もう音楽やライブから離れてしまったのかもしれない。
でもこうやって活動を続けていれば、いつの日かまたふらっと会いに来てくれると僕は信じている。その時が来たら彼にはビールを奢ってあげたい。
2023年6月4日、ツアー4発目は大阪 寝屋川VINTAGEに出演。
「名は体を表す」と言うが、ちゃんとテーマが決まっている場所はわかりやすくて良い。
海外から輸入した看板、コカコーラのデザインの椅子、時間が止まったままの時計、やや調子が悪く痛んだアンプリファー、整備不良で「危険!乗るな!」と書かれたエレベーター、まさにレトロでヴィンテージな場所だと思う。
共演するバンドが演者やお客さんにサイリウムを配っていたのだが、そういったものを渡されると自然と振りたくなるのが人間の心理である。他のお客さんも同じことを思ったようで、各演者のライブでは沢山サイリウムが揺れている光景を見ることが出来た。
ライブの前日はいつも「明日のライブはどんな景色が見れるだろう」とイメージを浮かべてみるのだが、流石にサイリウムがある景色は想像出来なかった。ステージ上から見たまばらにキラキラした景色を僕は忘れないだろう。
30分の出番はいつもあっという間だ、旅の終わりも見えてきている。
ライブは残り3本、当初は無謀と思われたこのツアーも蓋を開けてみればお客さんが足を運んでくれている。本当に有難いことだ。
3000円あればポップコーン付きで映画が観れる、美味しい居酒屋にもふらっと飲みに行ける、僕達ミュージシャンは30分という短い持ち時間で、映画や飲み会にも負けないような良いライブをするべきだし、お客さんには値段以上に楽しんで帰ってもらいたい。
偉そうなことを言ったが、僕達もまだまだ改善すべきところがある。ただ、確実にライブの質は以前より上がってきている。一つ約束したいのは、僕達は下手くそでも汗かいて一生懸命やるということは保証したい。
今回はここまで。かなり文章が長くなってしまった。
この記事を読んで伝わっていると思うが、実際にツアーを始めてみると当初からは想像していなかったことが起きている。やはり何事もやってみなければ分からない。
そこに価値を感じているし、残りのライブでも未だ見ぬ景色を見てみたいと思っている。
ふと空を見上げたらすっかり夏の色をしていた。
今年の夏はどんな夏にしようか、とりあえず花火大会には行くつもりでいる。
後編記事はツアーが終わった頃に書こうと思う。
▼収録曲
1. 少年の日の歌
2. GIRLFRIEND
3. セレクトBB
4. YB-1に乗っかって
5. キラキラ
6. 変わりたかっただけ -Live at KOBE BLUEPORT-
▼後編はこちら
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