「繁栄と長寿を」は波間を超えて

あまりにもこういう文章を書くのが久々すぎて。
初心者かというぐらい手探り状態なので、リハビリがてら思い出話を書こうと思います。

私自身はやらないのだが、ウィンドサーフィンをやっている知人がいた。
その友人との共通の話題が当時放映されていたSFドラマの代表作「新スタートレック」で、二人でよく盛り上がって話していた。

「新スタートレック」はSFドラマの金字塔「宇宙大作戦」の次世代にスポットを当てたドラマで、宇宙を探索し宇宙人との出会いや未知の惑星、広大な宇宙を舞台にしておこる壮大な物語を描いたものである。
…とはいうものの、結構人間臭かったり、「それでいいんかい!」という突っ込みを入れたくなるような話もあって、なかなか面白く、「ピカード艦長かっこいい」「アンドロイドのデータが面白すぎる」「副長の女癖はどうにかならんのか」などと二人でよく話をしていたのである。

ある日、その知人がこんなことを言い出した。

「ウィンドサーフィンの技の中に、スポックというのがある。」

波に乗り、くるくる回ったりターンしたりするあのウィンドサーフィンの技の中に、そういう名前があるという。
私は驚いてこう言った。

「え!? Mr.スポックの?!」

Mr.スポックとは、「スタートレック」の中でも高い人気を誇る人物で、地球人と異星人のハーフという設定で登場、父方の異星人の気質である超論理的な思考を受け継ぎ、「論理的ではありません。非論理的です。」などと地球人の行動を無表情に批判するのが定番のキャラだった。
とはいっても、それがすぐSFとは無関係のウインドサーフィンの技につながるとは到底思わず、ただの偶然じゃないかという空気になった。
しかし、知人はこうも言った。

「でもね、バルカンっていう技もあるんだよ。」

Mr.スポックにとってはバルカンとは、父方の惑星の名前である。つまり、Mr.スポックはバルカン星人と地球人のハーフなのである。
スタートレックにとってバルカン星人は、「理屈臭くて無感情だけど、それなりに理解しあっている宇宙人」という位置づけで、事あるごとに出てきて重要な役目をするのだ。
そんな重要な名詞(?)が同じジャンルでリンクするように出てくるだろうか。でもウィンドサーフィンも関係なければ海にも関係ない。二人とも確信が持てず、もやもやした気持ちが残った。

そんなある日、知人がビックニュースを持ってきた。
その二つの技を生み出し名付け親の海外の選手が日本にやってきて、交流会をするという。その交流会に知人が当選し参加できることになったというのだ。

「当人にきけるチャンスだ!!」

知人はきけるチャンスがあればきいてみるという。しかし、どう考えても交流会には無関係そうなので、あくまでチャンスがあれば、ということになった。

そして、交流会から帰ってきた知人の話はこうだった。

知人は多少英語ができたので、話をするチャンスをつかんだ時、思い切って聞いてみたという。そして帰ってきた答えは…

「僕はね、スタートレックが大好きなんだ!」

そこから彼は「宇宙大作戦」のほうを主体に話し始め、(知人はそっちを見てなかったのでわからない部分もあったらしいが)、二人でその話で盛り上がり、まわりから「何の話をしているんだ」という顔をされたらしい。

そしてバルカン星人の挨拶…手のひらを挨拶する人間に向け、中指と薬指を開き、「繁栄と長寿を」というのもやってくれたという。(原文は違うらしい…)

つまり、そのウィンドサーフィンの技は、本当に「スタートレック」からとったのである。

思わず「へええ」な話だった。
まさか本当に「スタートレック」からとっていたとは。
日本で例えるなら、ガンダム好きの体操選手が自分が開発した技に「シャア・アズナブル」とつけるようなもんだろうか。
公的な名前を、SFドラマからネーミングする、なんていう概念がなかったので当時はかなり驚いたのを覚えている。

今回、この話を書くにあたり、この選手はだれだったのか一応調べてみたのだが、よくわからなかった。この人ではなかろうか、という人はいたのだが、ずいぶん前のことで記憶がなく、確証はもてなかった。

ただ、ネットで調べてみると「バルカンに挑戦!」みたいな文言を目にすることがあったので、いまだ普通に行われているのは間違いないらしい。
(まあ、技がそんなに簡単にすたれるなんてことはないけど…)

このことを知った上で、海岸でウィンドサーフィンをしているのを見ていると、波間にバルカン星人が見えるようで。

世界は奇妙なところでつながってるんだなあ、などと思うのだった。

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