I do.
綺麗に巻いた髪の毛も完璧なメイクも、一歩外に出ると暑さとマスクのせいで台無しになってしまう。
水があるところに行けば少しは涼しい気分になると思った。
だけどそんな期待は簡単に打ち砕かれる。
オーブントースターに閉じ込められているような暑さ。
じりじりと肌を焼かれるような暑さ。
天王洲運河が見えるテラス席を予約したけど、暑さに耐えきれそうもないので室内の席に変更してもらった。
三人でランチをする。
女友達とその子が連れてきた男の子。
恋の予感はしなかった。
恋の予感がしなかったから、昼間から白ワインを2本空けてフワフワになった脳みそで適当なことをたくさん言った。
「いいよ。浮気しても。男の子じゃん」
「結婚と恋愛は完全に別物」
恋愛はドラマがあればあるほどロマンチック。結婚はロマンを捨てる時。仕方なく、ね。
半分本音で、半分嘘。
『浮気なんてして欲しくない。でも止められなくなってしまっとのなら仕方ない。私は黙って立ち去るからその子と仲良くね。くたばれ』が本音。
本当はいつだって夢見ていたい。
一目見た瞬間から火花が散るような衝撃が走って、話せば話すほど引き込まれてアンドロギュノスだった頃の片割れを見つけたんじゃないかと錯覚してしまうような。おとぎ話のように出会ってから数日で結婚してしまうような。
結婚は一緒にいるための手段で恋愛の延長線上にあるもので、結ばれた二人は永遠に一緒。永遠の愛だって存在するはず。
こんなことを言ったら現実を見ろとか、そんなに甘くないとか言われてしまうんだろうなと思う。周りに憧れる結婚をしている人だっていないし、夢なんて見ていたらこっちが馬鹿を見る。
なんて、このまま分かったようなふりをして生きていくのだろうか。
傷ついても、「仕方ないね」って涼しい顔して済ますのだろうか。
本当は傷付けられたらブチ切れて部屋の窓ガラス全部割って火を放ちたいくらいなのに。
もちろん男性全員がどうしようもないと思っているわけじゃない。
気付かなかっただけかもしれないけど、今まで付き合った人たちに浮気されたことはない。
浮気をする人もいればしない人もいる。
ただそれだけなのに。
期待せずに生きていくことで自分を守る。
私はいつから自分を守らなきゃいけないほど弱くなったの?
帰り道のモノレール。
女友達は私と男の子とは逆方向。
改札でバイバイして、モノレールに乗り込む。
今日一日対面で座っていたから、隣同士で座るのは距離が近くて恥ずかしくなる。
「人は叩けば埃が出るもんだよ」
クールに言い放った君は、やっぱり私の運命の人じゃない。