ホテルXO歌舞伎町
「週末は予定あるんだ」
そっとLINEを閉じる。
6、7年前は毎日連絡を取っていた。一日も欠かすことなく。
それでも私たちは恋人ではなかった。恋人ではなかったけれど確実に特別な何かが私たちの間を繋いでいた。
出会いは奇妙だった。
新宿のホテルの一室に集まった私と彼を含めた6人は4枚のLサイズのピザとコンビニで買ったお酒をたくさん飲んだ。嫌な記憶を全部洗い流すように、あるいはこれ以上ないくらいのどん底まで向かうように。
1人の女友達を除いてあとは全員知らない人だった。
この空間ではなんでも起こり得る。
君は人一倍清潔そうで、街を歩いていたら目を奪われるような外見をしていた。汚れた野良猫たちの中に毛並みのいいロシアンブルーが一匹紛れ込んでしまったようだった。
退屈そうな彼の隣に行き缶チューハイを一口飲んだ。
口の中で弾ける炭酸と少しの苦味。この世と同じだと思った。
苦しみと刺激。この世には、この街にはそれしかない。
他の4人が戯れる音は随分遠くに聞こえる。
「全部壊れちゃえばいいと思わない?」
この世界も、私たちも。
生を拒否する人間は臭いでわかる。
それから私たちはよく会うようになった。
映画を見たり、ご飯を食べたり。あるいは歌舞伎町のラブホテルに行ったり。
だけど私達はただ一緒に寝るだけだった。
一緒に寝ることで寂しさを埋めた。寝ている間は暗闇の世界。悲しみも喜びもない。手をつなぎながらたくさん寝て、現実を見ないようにした。二人で暗闇の世界を漂った。
みんなが理解してくれないことも君だったら理解してくれる。
何を言っても笑わないし、否定しない。
この特殊な甘い世界にずっといられたらいいと思った。
でも週に一回会っていたのが二週に一回になり、やがて一ヶ月に一回になった。会う頻度が少なくなるごとに私たちはお互いがいなくても生活できるようになっていた。
というよりも、このままだとまずいとお互い密かに思っていたのだ。
特殊な関係に溺れながらも私たちは依然として普通の人間だった。
普通に戻った私たちは普通に仕事を始めて普通に友達と付き合い、普通に歳をとった。
ふと君のことを思い出した。
たまに連絡を取るけどもう会わなくなった君。
可愛い野良猫の写真を送ってくれたり引っ越し先の相談をしてくる君。
会わない間に私は恋人ができたり別れたりを何回か繰り返した。
恋人ができても言わなかった。
君に恋人ができたかなんて私からは聞かなかったし、ましてや報告を受けることもなかった。
そんなことはどうでもよかった。
恋人がいたなんて分かったら私はきっと君に失望してしまう。
孤高の野良猫でいて欲しかった。
そんな君はいつも週末、連絡が取れない。