システムエンジニア、農家に就職する

私は今現在、農業法人(農家が会社をやっているようなものだと思ってもらえればいいかと思います)に就職し、会社員として、仕事として農業をしています。
その前は新卒から5年ほどシステムエンジニアをやっていました。
サラリーマン家庭で、学歴的にも農業要素はゼロ。完全未経験での農業への挑戦となりました。
大変な思いもしていますが、この決断で私の人生はひとつおもしろいものになったと思っています。

システムエンジニア時代に農業への転職を決意するところから、農業を始めてから最初の数ヶ月までの様子をここでは書いています。

まず、農業を始める前の話から。

農業を始めるまでの自分

私は新卒からシステムエンジニアとして5年働き、特に大きな不満や不自由なく生活をしていました。
このままシステムエンジニアとして少なくとも向こう10年はやっていくはず、自分の中ではそのように思っていました。

でも私はこの生活にどこか疑問もありました。
毎日家かオフィスの中でPCを触り、気付いたら夜になっている生活。
それは人間として正しい生活なのかと。

そして私はある日思いました。
自然の中で仕事がしたい。もっとリアルな仕事がしたいと。
太陽の下で働く生活というのはどんな世界なんだろうと。
そして自分の将来について本気で考え、私は本当に農業の仕事をすることになりました。
東京から九州へ。毎日クーラーの下でパソコンをいじる生活だったのが、太陽の下で草や土をいじる生活に。

転職活動や引越し、新しい仕事を通して本当に人生というものはわからないと感じたし、農業の仕事に就くと決めた日から毎日が新鮮です。

滅茶苦茶な選択をしたと思いますが、どうしても農業の仕事をやってみたかったのでした。
この選択で自分の人生が狂ってしまうかもしれないが、それよりも、自分の心に従った先で自分が何を見ることになるのか、何を感じることになるのか知りたかったのです。

良いことも悪いことも含め、生活が大きく変わっていく中で感じたことを書いていきたいと思います。

この記事では約1万文字で以下のことを書いています。

・農家への転職を決断するまでの経緯
・農家の面接の日のこと
・農業の仕事内容
・農業をやってみてよかったこと
・農業をやってみて大変だったこと
・「仕事に(農業に)夢を見すぎるのは危険
・農業に転職することは正解かどうか

転職の決断まで

私はIT専門学校卒業後、システムエンジニアを5年ほどやっていました。
システムエンジニアの仕事はまあ色々大変なんですが、それなりに慣れてきたこともあり、なんとなくこなせるような状態になっていました。

ITの世界で仕事をできることに喜びや誇りを感じていましたし、この後もIT業界で続けていくんだろうと思いながらそれなりに過ごしていました。

しかしある日、自分の将来について考えるきっかけが出てきました。
それはAI,ChatGPTの登場です。
知らない人はあまりいないと思いますが軽く説明すると、ChatGPTはAIによるチャットアプリで、人間の問いかけに対し、テキストや画像やプログラムを出力してくれるというものです。

このアプリは出始めの頃は出力に間違いも多くまあこんなもんかという印象でしたが、そこからの進化がとにかく早かったです。
ChatGPTが出て少しした後、簡単なスクリプト(プログラム)を書く機会があったので試しに書かせてみました。
自分が書いたら10分か15分くらいかかりそうなものでしたが、AIは5秒でそれを出してきました(現在ではそれよりもっと速くて正確)。

元々ITの世界ではこの先さらに自動化が進むという話は耳にしていましたが、元々私が見てきた自動化というものはたかが知れていて、こんなもので奪える人間の仕事なんてごく僅かだろうという印象でした。

しかしChatGPTはちょっとレベルが違いました。
間違いも多いですが、指摘すれば直してもくるし、これまでより遥かに人間に近い動きができる。
これがもっと精度や速度が進化して、さらにOSに標準搭載されたりするようになったら、デスクワーク・ホワイトカラー職というものはどうなっていくんだ?と思いました。

これでシステムエンジニア全員が失業して仕事が無くなるという極端な話には流石にならないと思っていますが、このAIがもっと進化すれば、人員の数で回しているIT業界はもっと少ない人数で回すことができるようになるのではないか。それが何年後のことかは分かりませんが、2023年時点でこのレベルのAIができたなら、もうそれは実はそんなに遠くはないかもしれない。
そしてその時、どこにでもいるシステムエンジニアである自分の席が残されている保証は全くないとも思いました。

これまでやってきた技術で今後もキャリアを積んでいくことを自分は考えていましたが、それを考え直すことにしました。

自分が何をしたいかとかどんなことができそうか、かなり色々考えました。
そんな中で色々考えていると、自分が今の仕事に対して抱えていた不満がわかってきました。

端的に言うと、自分の仕事に対してリアルさを感じなかったこと。
なんとなく言われたことをこなし、一日中パソコンを使って、気が付いたら部屋の中にいたまま陽が落ちている、という生活が人間として幸せなの?という思いが自分の中にありました。自分の仕事が全てPC上で完結することにも違和感があったのかもしれません。

AIの進化によりデスクワークには影響が出るだろうし、もう少し体を動かす仕事とかも良いかもしれない、という考えがありました。
そんな中で、「農業」という選択肢がいつの間にか浮かんできました。
いや、そんな馬鹿げた選択肢は無いだろうと思いながらもこれが中々頭から離れませんでした。

別に将来性がありそうな仕事も楽しそうな仕事も他にいくらでもあったような気がします。
でも自分の中で「農業」という選択肢がどうしても残り続けていました。

何故そんなに農業をやりたいと思ったのかというと、農家という仕事にこれ以上ない「リアル」を感じたから。
自然の中で土や草に触れながら、普段人々が食べる食べ物を作る仕事。
これ以上のリアルは無いのではないか、と思ったのでした。

システムエンジニアという画面上とコンピュータ内部という部分を取り扱う仕事をしていた分、物理的な要素の強い農業に惹かれたんだと思います。
普通であれば何を変なこと言ってるんだで終わりでそのまま今までの日々が続くはずでした。しかし、それ以降仕事中もずっと考えるようになりました。自分はこの仕事をずっと続けるのか…?と。

やっぱりどうしても農業に興味があったので、求人情報を見るくらいなら別に良いかと思い農業用の求人サイトに登録。
すると求人サイトの中の人からすぐに電話があり、色々と求人を紹介され、度々検討状況について聞かれる生活となりました。

農業の求人を見ると、休みも少ないし給料も減る。こんな選択をわざわざするのは馬鹿げている。
やはり今のままIT業界で続けよう。
と一度は思い、これまで通りの生活を続けました。

でもその中で、やはり何かが違うと思いました。
今のままだと、ぼんやり仕事をして、どこにでもいるシステムエンジニアとして過ごして、いつかAIに仕事を奪われることに怯えながら生きていくのか、という思いがありました。

何よりも、農業の仕事をやってみたいと自分が思っているのが自分自身でよくわかっていました。
システムの世界で一生を過ごすより、全く違う世界を見てみたい。
自然の中で食べ物を作るという体験を自分の人生に起こしたい。

そしていつの間にか農業をする方に私は動いていました。
求人の紹介を受け、面接をすることになりました。
関東以外で一度生活をしてみたかったというのと、退路を断つ的な意味で、就職するなら今住んでいる東京とは離れたところで考えました。

面接を受けに行ってやっぱり違うと思えばやっぱり違いましたと言って今まで通りの仕事を続ければいい。
別に面接を受けに行くくらいなら大丈夫かと考え、九州の農家の面接に行きました。

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