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雑記 561 『夜廻り猫』
深谷かほる著『夜廻り猫』の第9巻、出版されるのを待って、購入した。
心優しい野良猫が、
「泣く子はいねが〜」と夜廻りしている。
「むっ! 涙の匂い」
と泣いている人を嗅ぎつける。
「おまいさん、泣いておるな?
わけを話してみなさらんか?」
というのが、毎回お決まりのスタート。
泣いているのは、
彼女にふられたり、
仕事が上手くいかなかったり、
親しい人に死なれたり、
貧乏だったり、
孤独だったり、
努力して、すぐに暮らしがどうなる、という状況ではない人ばかり。
でも、懐に子猫を入れて、夜廻りする猫が、
慰め、希望を与えてくれる。
登場する若者は概して孤独で、老人は概して貧乏で一人暮らし。
そこに野良猫が上がり込み、
涙のわけを聞いてくれる。
食べる物も不自由な人が多く、そんな中でも工夫をこらし、美味しいと思うことの出来る料理を作る。
1話は8コマの漫画だが、悲しさや切なさを漂わせながら、その中にある幸せを感じさせてくれる。
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貧乏なこと、仕事が辛いこと、身分が低いこと、人間関係がうまく作れないこと、
登場人物は、
生きる上で、様々な、困難があり、
別に幸せでも不幸せでもなく、日常が過ごせる人とは少し違っている。
けれど、猫の言葉は優しさに満ち、話の展開から、しみじみとした安堵と幸せを、私のような、この話の登場人物に比べたら何不自由なく日々を怠惰に過ごしている者の心にも、あたたかい火を灯してくれる。
日常で忘れがちな、
絶対的な優しさ、人間であるために必要な思いやりの心を、身寄りのない野良猫や孤独な人の話を通して、再確認させてくれる。
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↑の本は、
そんな貧しい暮らしの中で、どれだけお金のかからない方法で美味しいものを作るか、
漫画の中に出てきた料理をまとめた本である。
例えば、「貧むす」。
揚げ玉と天つゆと三つ葉と米が、材料。
揚げ玉に麺つゆを染み込ませ、三つ葉を刻んで、炊きたてのご飯に混ぜて、握る。
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「カップ焼きそば」。
親指を骨折して、カップ麺の蓋も開けられない若者がいて、夜廻り猫が、空腹の涙の匂いを嗅ぎつけ、
行って蓋を開けてやる。
指が使えないなら、箸よりフォークですな、
とフォークを用意し、若者は無事カップ焼きそばを食べられた。
焼きそばを食べている傍らで、じっと見ていた猫が、食べ終わった若者に、
焼きそばを作る時に使って捨てた湯を、
「これ、もらっていいですか?」と。
猫も腹が減っていたのだった。
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読み終えた後に心に残る、優しい気持ちと清々しさ。
漫画とは言え、立派な芸術。
そんなことを言ったら、漫画家の方に悪いかな?
もう、9巻も買ってしまった。
外の道路を、
カチカチカチ、
と拍子木を打ち鳴らしながら、
毎夜、9時少し前、火の用心を促しつつ、
通る、野方の「夜廻り」。
今日も、静まり返った道を通り過ぎて行った。
雪の予報も出ているが、
今夜は降りそうにない。