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雑記 71 土日画廊の外猫

新井薬師駅の近くに「土日画廊」という画廊がある。土日を含む週のだいたい半分開いている。
木造民家の2階の部屋で、小さな展覧会が開かれる。

友人の画家が、展覧会をするというので、見に行った。2年前胆管と腎臓に癌が見つかり、手術して、復活した。手術は11時間に及んだと言う。復活して、よかった、ほんとによかった。

これは事務室。左側には、奈良の山の絵がかかっているが、額のガラスに反対側の壁にあるものが写り込んでしまった。この事務室の手前側が、ギャラリーになっている。

突き当たりの窓の外、道路を挟んだ前の竹藪では、カラスがひっきりなしにカアカアと遠慮のない声で鳴いていた。カラスの鳴き声は、遠くまで届く。

作品は小さいものから、割合大きいものまで、どれも、品の良い、長く飾って飽きのこない作品が並んでいた。
値段は、タイトルに上げた写真のものは、A3を横半部にしたくらいの大きさで、30万円。もっと大きいものは、土日画廊では飾るだけであろうが、150万円だった。掌くらいのごくごく小さい絵は8万円。
とてもいい絵だと思うし、色も心に染み入る良い色だと思うけれど、とても私には手が出ない。
でも、その30万円の絵を、ためらうことなく買う御婦人がいた。

私は彼がまだ駆け出しの頃の絵を3枚持っている。「炭」「栗」「茗荷」。どれもいい絵だ。その頃は1号あたりの単価がとても低かったので、私にも買えたのだった。1号当たりの単価が上がったから、と言って、絵の質が値段分上がるわけではない。彼の絵は彼の絵なのだ。とてもいい絵だ。

彼はある日突然黄疸になって、仕方なく医者に行き、と、病気の顛末と入院、手術に至る話を、画廊にいた人達に熱っぽく語った。
30万円の絵を購入されたご婦人は、子宮癌が見つかり、12月に入院と言う。何度調べても癌だと言われるから手術するしかない、仕方がない、と言う。どんなにか不安だろう。
私は、自分がとりあえず今癌でないということに感謝した。

やはり手術は有明がいい、いや慶應病院だ、と、居合わせた人を巻き込み、同窓会の集まりでありがちな病気自慢の話でひとしきりわいた。

私は、それから、友人画家のこの先の活躍を祈る、元気で、と挨拶をして、帰った。

階段を降りて扉の外に出ると、一階の部屋の硝子戸の前に、植木鉢が並んでいて、そこに猫が面白くなさそうに寝そべっていた。

今日は北北西の風。少し強いけれど、まだ寒くはない。こんな場所にいる、ということは、外猫なのだろう。首輪もしていない。近づくと、上目使いに私の様子を伺い、怯えたような表情で身構えた。私はどこに行っても猫は寄ってくる。それに怖がられることは、まずないと言っていいのだが。

こんにちは!
寒くなるけれど、元気でね。

と声を掛けて、帰宅。
またまたドラえもん電車に乗れた。

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