雑記 896 一番好きな人
山手線に乗っていた。
目白で制服を着てランドセルを背負った小学生が3人乗ってきた。
誰でも名を聞けば、ああ、と分かる学校の児童。
その3人組が電車の中で賑やかにおしゃべりをして、
ねぇ、世界で一番好きな人って、誰?
という話が始まった。
〇〇ちゃんは? △△ちゃんは?
それぞれが少し照れて、目を伏せ、
えーーとね、
と俯く。
私、もう決まった。
とひとり。
私も、
と別の子。
誰?
と言うと、照れくさそうに、えへへ、と笑う。
私も決めた、
と最後の一人。
じゃ、せーの、で、一緒に言おう、
と質問を始めた子が言い、皆が頷き、
せーの、
と言って、3人が、一度に、声をそろえて言った。
「じぶーーーん」。
私は、少なからず衝撃を受けた。
この世で一番好きなのが、じぶん、だって?
落胆もした。
私は、
お母さん、とか、お父さん、とか、おばあちゃん、とか、そんな返事を期待していたのだった。
私の頭が昭和なのか。
思い出すたび、心地の悪さがあって、
こんなことがあったのよ、
と三十代半ばの知人に言った。
びっくりしちゃった。
と、言うと、
それって普通じゃないですか?
と返事が返ってきた。
世の中で一番好きな人が自分以外にあるんですか?
と。
私はさらに衝撃を受けた。
うーーーん。
私には分からない。
自分がなければ、何をすることも出来ないのだから、確かに、自分は基本ではあるけれど、それはそれ。
その上で、自分の他に、誰が一番好き、と考えるのが普通、と私は考えてしまう。
自分が今安心して学校に通え、不自由なく過ごしていること。家に帰った時、一番に笑顔で迎えてくれる人は誰だろう。
世界で一番、と言った時に、自分を支えてくれる人、感謝すべき人を思い浮かべることはないのだろうか。
これが、世代の差、今の若い人の普通に考えることなのだろうか。
少し寂しい思いをして、
その驚いた話をそっと引っ込めた。