ご相談【実話怪談】
お世話になります。haco(X:テテマウ)です。
今回は、私がこれまで見聞きした中で、肝の部分にゾンとなりつつ、その肝の部分にこそ腑に落ちないものを感じてしまうお話をひとつお読みいただければと存じます。
長くなります。恐れ入ります。
私がかつて勤めていた企業(業種は伏せさせてください)は、同ビル内にてツーフロア体制をとっていました。
私は全面オフィス展開の上階に勤務していたのですが、下のフロアは7割機械室、3割オフィスエリアというつくりになっていました。要はその3割部分に、機械室とかかわり深い部署が配置されていたのです。ここでは仮に「E部」とします。
このE部に、非常に霊感が強いと評判の20代男性社員が所属していました。今回お読みいただく話以外にも、彼から直接、もしくは伝聞として間接的に聞いた不思議な話はけっこうな数になるのですが、本筋とは交わらないため割愛します……というのもサービス精神に欠けるので秒で終わる話をひとつふたつ。
・彼が入眠前に灯りを消そうとスイッチに手を伸ばしたところ、耳元で「消さないで」と言われた
(「点けないで」ではなく「消さないで」なのが謎くていいですね)
・自宅近くを流れる川の対岸から、一見してウワッとなる人数の「あちらの方々」が一列に並んでこちら側を見ていた
(関係性は不明ですが、彼の暮らす区域は不審火が多かったそうです)
・たまに金縛って変なの見るんですけど、と相談したところ「実害ないなら耐えるしかないです」と返された
(スピや宗教や高額なブレスレットなどは決して持ち出すことのない人だったので、信用できるなあと)
その霊感同僚からすると、彼の働くフロアは、機械室・オフィスともに「どっちにも常になんかし居る」状態だったようです。おばけさんは電磁波と親和性が高いという説もどっかしらで耳にしたことがありますので、まあそんなものかなと。心スポでは録画、録音機器が不調になるという話もよく聞きます。
しかしながら会社のワンフロア、特に心臓部でもある機械室に「常になんかし居る」というのは、よくよく考えれば大丈夫なのか? という気がしなくもないですがそれはさておき。
ある日の就業中。その霊感同僚がオフィスエリアにてこう呟いたそうです。
「今、子供がひとり、部屋中駆け回ってる」
お子さん連れ出社を推奨している企業ではありませんでした。いや「誰かが連れて来たお子さん」という点においてはその通りだったのかもしれませんが、それにしたって彼以外の人間には何も見えていない状態。別の意味で「フロアが沸きそう」な状況ではありますが、常になんかし居るというのはE部内でも共通認識だったらしく、その場に居合わせたスタッフ一同、今日はそういうのがいるんだ、程度で流したそうです。
改めて書くと何? この就労環境。おばけさんおるおらんで仕事の手を止めるわけにはいかない程度には忙しい会社でしたが、それにしたって何?
ともかくそのチビおばけさんは、暗い目をして働く大人達を尻目に好き勝手した挙句「あ、棚の後ろに入ってった」らしく、それを聞かされた別の社員が物好きというか強心臓というか、いそいそと棚の裏を確認しに行ったところ、そこには本来あるはずのないスリッパが一足、棚裏にぴったり添うかたちで並んでいたそうです。
この状況、ちょっとわかりづらいかと思いますのでイメージ画像を添付します。
突然の自宅でお目汚し失礼いたしました。適当な家具がこれしかなかったため背後にドアがある配置になってしまいましたが、オフィスの棚は出入口から距離のある場所に設置されていました。つまり、スリッパが揃えて置いてあるのは不自然な状態だったということです。
私自身、多少なり変なものと接触した経験があり、また霊感同僚以外の方々からも色々な話を聞いて仕上がった結果(余談ですが亡父もぼちぼちの霊感持ちでした)、おばけさんはおそらく居ます派の者としてやらせていただいておりますが、おばけさんその人が物体を動かすなどといった、俗に言う「ポルターガイスト現象」についてはかなり懐疑的です。
やはり地球上で起こる現象は物理法則に則っているでしょうから、どんだけ軽いスリッパでもひとりでに動くなんてことはないと思うんです。少なくとも私は「戦慄動画」的なあれこれ以外では目撃したことはありません。食器棚から皿が飛び出すのも椅子がひとりでにぐるぐる回転するのも。
公平を期すために書きますが、以前宿泊した旅館の大浴場にて、入浴客は私しかいなかったのに、いつの間にかシャワーが全開になっていた……ということならありました。ですがあれはハンドルの締めが甘く、水圧で開栓したとかその程度のことだと思います。
その後、私と入れ替わりで入浴を済ませた母が「脱衣所で髪を乾かしてたら、隣でずっとドライヤーかけてる人がいたよ。姿は見えなかったけど」と余計なことを口走ったせいで、お風呂の流れとしては合ってるなあと考えたりもしましたが、まあ気のせいでしょう。
閑話休題。つまりそのスリッパはたまたまそこに置かれていたか、もしくは誰かが意図的に置いたか――と考えてしまうと霊感同僚を疑うような流れになってしまうのですが、霊感同僚は大学時代に広告や雑誌のモデルで収入を得ていたというイケメンで、霊感持ちを標榜しなくても注目が集まるタイプ、どころかその霊感のせいで可哀想にもキモがられているくらいだったので、自作自演の可能性は薄いかと考えます。
※イケメンに対する歪んだ認知はいずれ改めます
おばけさんが物理法則を覆すことができないというのは、常識的、合理的に考えた上で、私自身「実際に見たことがない」ということを根拠にしているだけなので、もしかすると、絶対にありえない事象とは言い切れないのかもしれません。それでもやはり起こり得る、考え得る可能性の中における説得力の強度みたいなものはあると思うのです。
科学的に考えるとするならば……該当フロアが電力ぶんまわし系の機材でみっちみちであったことは確かなので、床の材質とスリッパの素材の食い合わせによる静電気のいたずら(スリッパが常用されていることからもわかる通り、絨毯敷きのフロアでした)という線はどうでしょう。いやそこまでのエレキパワーが飛び交っていたとしたらE部の面々も無事では済まない気がします。というかどこに科学的要素があるのか。ドドドのド文系にはこの辺りが限界です。
とはいえ。
履いていたスリッパを揃えて脱いで、棚裏に入っていくチビおばけさん。
絵面は可愛いです。ほのぼのします。ですが、うーん。
ここにきて唐突なる引用で大変恐縮なのですが、怪談ツイキャス『禍話』において、かなり初期の回で「両替をするこっくりさん」といった話が語られていたと記憶しています。
ざっくり言うと「こっくりさんで使った10円玉がいつの間にか5円玉2枚に両替されていた」といった内容だったと思うのですが、その現象について、語り担当であらせられる かぁなっきさんは「たぶん無意識のうちに両替『させられて』いる」という旨の発言をされていて、なるほどな、と膝を打った次第です。
つまり10円玉が分裂してトランスフォームしたわけではなくて、体験者さんが見事「こっくられて」、自分自身で硬貨を入れ替えていた、と。
霊感同僚とE部の社員、彼らの話を全面的に信じた上で「両替こっくりさん」の考え方を応用すると、彼らのうちの誰かがチビおばけさんに力負けし、操られた結果が棚の隙間にスリッパひと揃い、なのかもしれません。
スリッパを必要とする足の状態は素足ないし靴下。そんなんでドタドタ走り回っていたため、足の裏でも痛めたのでしょうか。
もしくはE部には彼以外にも「霊感持ち」が在籍しており、彼or彼女が大変優しい心の持ち主だったとしたらどうでしょう。
棚の裏からお出まして元気いっぱい走り回るチビおばけさんに、あらあら、お行儀よくなさいね、とスリッパを差し出した……。微笑ましい。心が温まります。が、ひとつの部署にふたりの霊感持ちは明確に配属ミスなので、微笑んでいる場合ではありません。
実話に「納得感」やら「腹落ち」やらを求めてはいけない、ということは重々承知しています。しかし本当にこの話だけは、霊感同僚をそれこそ棚の裏に追い詰める勢いで解説してもらうんだったと深く悔やんでおります。
伝聞のみで「また面白いことあったんですねぇ」と満足するべきではなかった。部署をまたいだ飲みの席で「最近どんなことありました?」と新たな怪異譚を求めるよりも、深堀りを優先していればよかった。
個人的にアドレスを交換するまでの間柄ではなかったため、私の退職後はすっかり縁が切れてしまいました。他の同僚の伝手で連絡くらいは取れるかと思いますが、お久しぶりですもそこそこに「走り回る子供とスリッパの関係性について解説をお願いします」なんて迫りくる女がいたら、それはもはや、そういう類のホラーです。それくらいの常識は持ち合わせています。
あの、そういった流れでですね、ここまでお読みいただいた奇特な方々にご相談というか、お願いがございます。
note界の片隅に転がる芥子粒のようなこちらの話に辿り着いてくださった皆様方の中で、「それってこういうことじゃない?」とか、「類話がこの本に載ってるよ」とか、なんらか、なんらかをもたらしてくださる方がいらっしゃいましたら、是非ともお気軽にご連絡いただければ幸いです。
XのDMを開放しておりますので、何卒宜しくお願い申しあげます。ただ当方、一本背骨の通った内向者そして小心者なので、あの、本当に白子のようなメンタルなので、その点も何卒、何卒