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私立より国立のがお金かかることも!?

「私立はお金がかかるから,国立にしなさい!」と親や高校の先生に言われる学生がいると思います.親に払ってもらうんだから,仕方ないなと諦める人もいるでしょう.その前に一度読んでほしいです。あるいは子供に,私立は高いから諦めてと言う前に一度読んでみて欲しいです。

本当に,国立大学と私立大学だと,国立大学進学のほが安いのでしょうか?

 日本には国公立大学が約200校程度,私立は600校程度あります。これを1くくりにして比較するのは,ちょっと雑すぎる気がしませんか? そこで,大学でかかるお金を紹介しつつ,これについて比較してみようと思います。特に理系で大学院進学まで考えている人は,必読です。

今日の内容は説明が長いので結論から先に書きます。

 「ある分野のA国立大学と,B私立大学を比較した場合の,学費以外を含めたトータルの金銭的負担は,A国立大学のほうが高くなる場合がある。

  つまり,実は国立が安いといわれて私立を諦めてA国立大学に進学したけれども,実際はB私立大学に進学するより,金銭的負担が大きくなってしまったといということです。

  このことを高校生時代には誰も教えてくれませんでしたし,私自身も私立大学,特に大学院に進学してから実感しながら知りました。おそらく高校時代に高校生が自分で気が付くことは難しいと思います。 そこで,今回は進学にかかる金銭的負担について説明したうえで,なぜ私立に進学したほうが,国立よりも金銭的負担が小さくなる可能性があるのか説明します。まず,そもそも,大学進学で必要なお金とは何だろうか? 整理してみました。


 

大学進学でかかるお金

1) 学費(細分化されているがまとめて)

 大学ごとに費用の明細項目が違い,設備利用費などと別れている.ここではひとくくりに学費とします。一般的に同じ分野なら国立のほうが私立より安いです。昨今,国立大学の学費が高くなってきているので,私立との差はうまりつつある傾向です。

2) 家賃・光熱費

 家賃光熱費です。どの大学に通うかで実家から通うか,賃貸を借りるかで変化します。また大学の寮に入れればもっと安くなります。特に都内でも寮の設備がよくて負担額が小さい大学であれば,国立私立関係なく私立か国立かの学費の負担差を埋めるほどの効果があるはずです。これは事前に調べやすいとおもいます。一方で,寮によっては相部屋だったり,共有空間も多く,そのような生活様式が苦手な人は向きません。

3) 食費

 一人暮らしをする場合は食費も大きい負担です。自炊のための食費だけではなく,朝や昼間の食事代も含めます。都市部や生鮮食品の値段は高いですが,安いお弁当や定食屋,お惣菜屋は効果的に利用できます。特に学食の充実した大学であれば,朝ごはん100円提供や,夕ご飯300円提供などをする大学もあります。小さい話だが,毎日の満足度と,健康,そして金銭負担を考えると学内や学校周辺の食事情,コスパ事情は死活問題です。都心から離れた郊外で家賃が安くても,安く食べられるところがないと,外食の食費はむしろ高くなったり,自炊回数が増えます。勉強もしつつ自炊でコスパよく生活するのはそれなりの負担です。学園祭などで,行きたい大学に訪問すると,お昼食べるところマップなどを配布しているので,そのあたりから事情は分かりやすいです。今はネットで調べればおおよそのことが把握できるとおもいます。

4) 移動費

 大学への移動,バイト場所への移動,遊びでの移動,移動が公共交通でいけるのか,車を準備する必要があるのか。通学定期は移動手段の中ではかなり安いです。住む場所,働く場所,遊ぶ場所,大学を1つの路線内にいれられる大学のほうが,移動費の負担を減らしやすいです。一方で,遊べる場所が離れている大学ですと,遊ぶたびに交通費を別で支払うことになります。これは学生にとって大きな負担です。また,地方で家賃が安い場合も,大学まで車で移動するしかないところおもあります。自動車の維持費はそれなりにかかり,無視できる金額ではないはずです。

5) 教科書,参考書,実験や製作の材料や機器

 大学で使う教材(資料や消耗品)がどの程度の自己負担があるのかは大学の各学科によって大きくことなります。教科書や参考書の事情は,学びたい分野が同じであれば大学による差はそこまで大きくないと予想されます。イメージしやすいのが,学生が紙媒体の教科書を買う必要がある場合です。昨今では,教科書を大学が電子契約している場合があります,学生は大学が購入した電子ペーパを無料で見れるので,教科書を買う必要はありません。
そして,一番差がでるのが,実験実習や制作課題で利用する器具や部材料の金額負担です。大学が配布してくれる場合と,全部自己負担の場合,ある程度配布してくれる場合などあります。学科によっては,年間数千円の分野もあれば,数10万円ではおさまらない自腹額を超える分野もあります。

6)デジタル環境構築の費用

 大学の授業は基本PC必須がほとんどです。大学によってはPCを配布(4年間貸し出し)してくれる場合,そうでない大学があります。また,授業で利用するソフトウェアも大学負担の場合と,学生が負担の場合があります。自己負担であれば,4年間で数十万の差が生まれます。

7) ゼミや研究活動費用

 3年,ないし4年生から卒業研究を行います。この活動の消耗品や,移動費,宿泊費などを大学が負担するか,学生が負担するかは大学ごと,あるいは学部ごとに異なります。一般的に,有名私立はこれらの研究活動(大学のブランド力を高める活動)に対する補助が手厚いです。そのため学生が自腹ということは少ないでしょう。
 もし大学を就活予備校とらえず,学んで活発な研究活動を行いたい場合は,私立大学のほうが学費が高くても,結果的に支払うお金は,私立のほうが安くなる大きな要因の1つです。
 ゼミや研究室に学生が配属されて,ゼミ活動や研究活動を行います。その1くくりのゼミに大学から配布されるお金も,大学ごとに全然違います。ある国立大では,1研究室に年間20万円,ある私立大学では年間400万円というように,微々たる差ではないのです。もちろん研究室ごとに企業や国などの補助金を得ているため,同じ学科内のどのゼミが,どの研究室がどれだけ学生の自己負担が多いか少ないかは,大学だけのくくりでは語れません。ここで言いたいのは,国立私立で費用負担を選んだとしても,自己負担が大きい国立大学の研究室に入ると,自己負担の小さい私立大学の研究室に入った場合よりも,同じだけの研究活動の経験をしようとすれば4年間ないし,修士まで含めた6年間の自己負担が,国立のほうが増えてしまう可能性があるということです。
 1研究室が1年に1億円規模の研究費を利用している場合もありますが,そのような極端な例は除いても,数千万円規模の研究室が同じ学科や学部に複数あるかどうかは,大学のレベルだけでなく,大学が研究開発に対して支援しているかどうか(研究開発支援の部隊があるか,有効に活用されているか)が大きく影響している可能性があります。有名な大学なのに,全然研究活動をしていないところもあれば,一般的にそこまで有名でなくても研究活動に力をいれている(学生の自己負担が少なく様々な経験ができる)大学もあります。 
 どの研究室に配属されるかは,入学当初はわからないですが,少なくとも大学の研究活動に対する補助の手厚さは,事前に大学の公式ページで調べることが可能です。
 例えば自分の目指す分野でA大学A学部A学科とB大学B学部B学科があったとして,そこの所属教員の過去5年くらいの論文数や獲得研究費を比較することはできます。各大学研究者の実績は,リサーチマップというサイトで確認可能です。

  

8) 就職活動にかかる費用

 これは,学生の就職希望先にもよります。実家が北海道で,就職希望先が大阪だとします。この場合,大阪や京都の私立大学に進学する場合と,北海道の国立大学に進学する場合では,就職活動にかかるコストが全然違います。コロナでは対面面接は減りましたが,説明会も面接もOB訪問もインターンも全部対面が基本です。その期間に,大学の授業や研究もあるので,北海道に住んでいる場合は,何度も飛行機で往復したり,1週間ビジホに宿泊するなどの方法が必要になります。景気のいい会社は,これらの費用の一部負担をしてくれますが,学生の自己負担は相当額になります。

  このうち,1)~3)番までは,多くのご親御さんも,高校生も予想しているはずである.そして,この1)~3)の費用概算で,どこどこの国立の場合と,どこどこの私立の場合と,比較しているのではないでしょうか.

  

大学進学時に得られる収入

A)仕送り

 (これは,家族内でのお金の移動なので,ここでは,収支に勘定しなくてよいかもです)

B)バイト

 大学生になったらバイトしなさい.そう言いたい気持ちもわかりますが,大学によっては,バイトできない大学もあります.立地の関係で,授業に出つつバイトを行うのがなかなか難しい場所にある大学もあります.キャンパスが都心から離れていると,何をするにも移動にお金がかかる.場合によっては車が必要である.時給のいいバイトが少ない.そのため,実質の時給がとても低くなる傾向があります.一方,都内の大学であれば,通学定期の区間内に大学の授業2コマの間に入れるくらいの近いところにバイトを探すこともできる.しかも時給もいい.自分の生活にあわせた様々な時間帯のバイトが選ぶことができます.

C) 奨学金

 どの大学に所属していてももらえる奨学金以外に,大学独自の奨学金制度があります.特に,私立大学は優秀な学生は,大学のブランド力を高めるので,お金を払っても来てほしいので,学費免除に相当する奨学金を準備している場合が多いです.

D) 大学独自の補助金

 これは,C)や,6)にも相当しますが,いろいろな補助があります.高校時代には想像がつかないくらい,多岐にわたる補助があり,それらをうまく利用すれば,どんどん自己負担は減ります.例えば,ある私立大学では,学生の医療費負担(薬も含め)を月1000円以上は全部大学が支払ってくれるという制度があります.みんな,卒業前には歯医者に通い,虫歯を全部なおします.また,4年生や大学院生時代の研究活動に対する補助も大学ごとに大きく異なります.大学院まで同じ大学で進学する予定ならば,研究活動に対する補助が,学費の差分よりも,大きな影響をもってきます.

E)TA(Teaching Assistant 大学院生が授業を補助するバイト)の時給

 大学院に進学する場合に限りますが,大学院生は,学部生の授業を教員が行う場合のアシストをするTAを担当します.強制ではないですが,過半数がTAとなることを前提に大学院は運営されているので,実質は強く促されます.そのTAの時給は,大学ごとにバラバラです.同じ都内でも,ある国立と,私立では倍以上違うということがあります.年間100時間程度TAをするとして,時給1000円なら,10万円,2000円なら20万円です.

 この,A)とB)は想定している人が多い.場合によっては,C)も想定している人がいる.しかし,D)E)まで考えている人は少ないのではないでしょうか.D)については,大学の公式ページにおおよそ公開されています.E)については,オンライン上では公開されていない場合が多いですが,大学の物理的な掲示板に募集されているTAの案内に時給が記載されている場合が多いので,オープンキャンパスの際に確認できる場合もあります.

  

まとめ

 お金のかかる度合いは,支出全てと,収入の差(他もあれば,それも含め)になるので,単純な学費だけではないです.それが実際どの程度違うかをよくよく考える必要があります.東京大学などの旧帝大や東京工業大学など,トップの国立が学費面と,得られる学びの意味で費用対効果が優れているのは言うまでもないですが,

上位の私立大学も,優秀な学生に金銭的負担をなるべく減らして,活躍して欲しいとに,独自の補助を手厚くしています.(大学側がこれを高校生や保護者の方にうまく発信できていないのも事実です.)

 もし高校生のあなたが,大学でもしっかり頑張れるのであれば,実質負担は私立大学のほうが安くなる可能性は十分にあります.上記に書いたことを,個別の大学ごとに調べ上げるのはとても大変だと思いますが,「私立は国立よりお金がかかるから」というあいまいな理由だけで,第一志望をあきらめるのは勿体ないと思います.

 参考になれば幸いです.


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