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「白だったら、どうしてくれんの?」

「あなたも発達障害じゃないかと思う」と勇気を出して言ったら、モトオにこう言われました。

ムスメよりも特性が強かったモトオが発達障害であることは明らかでした。元々我が家にはムスメが生まれる前からモトオに問題があり、私が我慢していたのです。

これを本人に伝えたらどうなるか、考えただけで動悸がする私でしたが、発達障害だとしたら、原因がはっきりするので改善の余地があるとも思っていました。

私は言葉を選びながら、切り出しました。

「結婚してからずっとあなたの言動がおかしいと言って、しょっちゅう喧嘩してきたじゃない?」

すると、まさかのここで、想定外の反応が返ってきたのでした。

何のことか分からない顔をするのです。恐ろしいことに、彼は何も覚えていなかったのでした。

過去の記憶もなかった

「え、覚えてないの? 結婚してからずーっと喧嘩してきたじゃない? あなたが二重人格みたいに変わったって言って、私が泣いたり怒ったり、夜中までよく話してたじゃない?」と言うと、彼は小さな子供のように首をかしげました。マジか…

確かに振り返ってみると、ムスメが生まれてからは育児が大変過ぎてモトオの奇怪な言動につきあってる暇はなく、私は平和的解決策として、モトオがどんなにひどいことを言ってきても聞こえないふり、見えないふりでやり過ごし、以前ほどすっかり爆発しなくなっていたのでした。

「覚えてないのがびっくりだけど… えーと、とにかく結婚してからずっと私たちは喧嘩ばかりしていて、あなたは傍若無人で、直すと言っては同じことを繰り返すから、私はずっと言い続けてたんだけど… 
ほんとに覚えてないの? 
まあだから要は、あなたはムスメ以上に特性が当てはまってると思うから、あなたもそうじゃないかと思うんだけど」

すると、モトオはみるみる顔を引きつらせ、私を責めるようにこう言いました。

「オレが、自閉症だって言ってんの?! 正気で言ってんの? 自閉症だぞ! 
何言ってるか分かってんの? 人を障害者呼ばわりして、白だったら、どうしてくれんの?」

ムスメのウィスクIVという知能検査の結果から自閉症スペクトラムの説明は一緒に受けていたので、彼にも当てはまることが沢山あったはずでした。けれど、私の想像を遥かに越えて、彼は自覚がない人だったのです。

そして、この時不快だったのが、彼の偏見にまみれた言い方でした。自分やムスメがそうなのに「自閉症に障害者。 白だったら、どうしてくれんの?」って、一体何様なんだと言い返したいのをグッと堪えて冷静に話を続けました。

「どうしてくれんのって言ったけど、どうもしないよ。 その場合、違ったんだねってことでいいんじゃないですか? でも発達障害じゃなかったら、あなたはただ性格が悪くておかしい人だってことになるけどね。 どっちにしても、ムスメの事で無視を決めてるけど、それは困るので、本を読んで発達障害のことを勉強して下さい」

彼は悔しそうな顔をして長い時間黙り込むと、吐き捨てるようにこう言いました。

「あなたがそんなに言い張るならいいですよ! 
医者に行けばいいのね。 でも、白だったら謝って貰いますからね」

こんなことを言われて気分は最悪でしたが、私には彼が黒だという自信があったので、どこかホッとしました。彼には外面がよく、権力者に弱いという特性があったので、第三者である医者が関われば、今度こそ変わるだろうと思っていたのです。

予約を取るだけでも数ヶ月待つのは当たり前のこの世界で、彼がすぐに虎ノ門にある大人の発達障害専門クリニックというところの予約を取ってきたのは驚きでしたが、一人期待に胸を膨らませ、一緒にクリニックへ行ったのでした。

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