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笑顔になるための努力

モトオが不機嫌なせいで家の雰囲気は、いつも最悪でした。彼が元凶であることは明らかなのに、本人は微塵も悪いと思っていないのですから、出来るだけ関わらないようにするしかありませんでした。

それでもある日、考えた末、出来るだけ感情を抑え、具体的にお願いしてみることにしました。家族の為と言えば、いい加減考えてくれるだろうと思ったのです。

お願いというのは、嘘でもいいから笑顔になってもらうこと。外の人に見せている笑顔を家族にも見せて欲しい。ただそれだけでした。

そもそもモトオが、私たち家族と関わる時間なんてほとんどないんだから、後ちょっとフリを続けてくれればいいだけの話しではないか。モトオだって家族と仲良くしたいと思っているはず。私は勇気を出して声をかけました。

「外でしているように、家でも笑顔で優しくして欲しいんだけど」

すると、彼はこう言いました。

「家に帰ってまでやってたら疲れるだろう! オレはいったいどこで休むんだ!?」

自分が休む為に家族に不機嫌にしている事を自ら認めた発言でした。私が言葉を失っていると、彼もそれに気づいたような顔をしました。

「自分の都合で家族に不機嫌にしている自覚があるってことね」

彼は黙ったままでした。

「どこで休めばいいかって話しだけど、今も一人で部屋で休んでるんだから、自分の部屋でゆっくり休めばいいんじゃない? とにかく家族のために家でも笑顔になって欲しいんだけど、努力して貰えますか?」

恐らく彼は『オレに冷たくしているくせに、笑顔で優しくしろとオレに指示してきた』とでも解釈したのでしょう。怒りをあらわにした顔で「無理!」と言って、自分の部屋へ逃げていきました。

昔、結婚したての頃、感謝のないモトオの態度に腹を立てた私が、パートナーである妻には敬意を払うべき、とはっきり言ったことがありました。それに対しても彼はこう言い返してきました。

「あなたが家事をするのは当たり前。 だから感謝などしない。 敬意って尊敬ってことだよね? 父親も尊敬してないのに、あなたを尊敬する訳がない」

私は即家を出ましたが、その後平謝りされたので戻ってしまいました。言葉は人の内面を写します。この時、彼が口にした言葉は彼の真の心のあり方を表したもので、その後変わることはありませんでした。

実は、ムスメも昨年くらいまで「家でも人には気を遣うこと、思いやりを持って接すること、偉そうにしないこと」などと私から言われると「じゃあ、私はどこで休めばいいの?」とモトオと同じことを言って怒っていました。なので、これはASD(自閉症スペクトラム)のこのタイプに共通する言動なのだと思います。

家族に気を遣えと子供に言うなんて、と思われる方もいるかもしれませんが、こうでもしないと感謝も何もしないので仕方ないのです。

因みにこの時、彼女に「自分は人と関わることがストレスになると認識して、ひとりになる時間を意識して作ること、ひとりの時は人のことなどを忘れて休むことを心がけること」と提案すると、「教えてくれてありがとう」と言ってくれました。

家族をまるで自分の所有物か、世話をしてもらうことは当然だと考えるのは間違っています。家族は社会を構成する基本の共同体であるだけで、一人一人は違う人間です。ですので、家族であっても人としてお互い尊厳と敬意を持って仲良く暮らす努力をしなければいけないことに変わりはありません。

要するに、家族は大切にしなければいけないってことなんですが、特性のある人にとっては、家族も人間なので、関わればストレスになるという訳ですから難しいところです。

私もムスメの対処法には気をつけているつもりですが、まだまだお互い努力は欠かせません。かといって、思い詰めるのもよくないので、特性である「極端な思考」に左右されないよう、笑顔とユーモアを忘れない努力も必要だと思っています。

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