なぜ自分を責めてしまうのか? 無駄に悩まないためのWhy思考とWhat思考の使い分けとは
「私、なぜあんなミスしてしまったんでしょうか…」
先日、同僚と会話をしていた際に、こんな言葉を聞きました。彼女は仕事でやってしまったミスを後悔していました。そして、そのミスによってチームメンバーにも不利益が出たそうで、かなりへこんでいました。
こうしたケースは仕事をしているとよくありますよね。ミスもケアレスなものからチャレンジするがゆえに起こしてしまうミスなど、様々です。そんなミスをした後に心に浮かぶ言葉は「なぜ?」ですよね。
ビジネスのシーンではこうした「なぜ」を問うWhy思考が推奨されるケースが多いです。論理立てて課題に向き合う上で有効な思考法と言えます。トヨタの「5Why」というメソッドも有名ですね。一方で、この思考法は万能ではないようにも思います。
今回は、自分を過剰に追い込まずに、建設的に思考を前に進めるための工夫について考えます。テーマは「Why思考とWhat思考」です。
ビジネスで有用なWhy思考
Why型思考とは、対象となる物事に対して「Why(なぜ、どうして)」を考える思考法です。その物事から遡って思考を飛ばす考え方ですね。例えば自分の目の前の仕事に対して、その「目的」「理由」などを考えること。
この思考の優れている点は「意味」に気付く所にあると思います。目の前の仕事をただ右から左にこなすだけでなく、「何のためにこの仕事をするのか?」という「意味」を考えることによって、より良い問題定義や、より本質的な解決策の立案に結びつけます。イノベーティブなアイデアや、創造的な仕事に非常に有効です。
仕事に日々向き合っていると、目の前の「作業」に気を取られ、その仕事の本来の目的を忘れがちです。作業が目的化している状態です。こうなってしまうと、本来の目的を達成できないことにもつながりかねません。
生産性高く、より意味のある仕事をする上で、「なぜ?」「どうして?」と意味を遡って本質的な目的をグリップすることは、非常に重要な思考法と言えます。
ただ、このWhy思考一辺倒で考えてしまうと、マイナスに働くケースもあります。それが冒頭の彼女のケース。つまり、ミス・失敗と向き合うケースです。
Why思考の落とし穴
ミスをしたり落ち込んだとき、誰しも「なぜ・・・?」と自分を責めてしまうことってありますよね。どんなに前向きな人でも少なからず経験はあろうかと思います。
「 なぜ自分はできないんだろう…」
「 なぜあんなミスしてしまったんだろう…」
「なぜ余計な一言を言ってしまったんだろう…」
こう考え出すと、発動するのが「自責モード」です。自分に矛先が向いてしまい、どんどん自分を追い込んでしまいがちです。
「自分は無能なんじゃないのか?」
「 自分には向いてないんじゃないか?」
「自分の能力では太刀打ちできないのでは?」
「 自分にはセンスがないんじゃないかのか? 」
ネガティブな思考がどんどん膨らんでいきます。これはビジネスシーンでWhy思考が身についている人は特に陥りやすいと思います。冒頭のケースの彼女も、非常に有能なスキルを持った人財です。しかし、有能がゆえに、原因究明のWhy思考で自分に矛先を向けてしまう。つまり、対象が「自分」のケースではWhy思考は自分を傷つける凶器になってしまうということですね。
Why思考→What思考 にスイッチ
こうしたケースでより有効なのはWhat思考です。「What思考」は、「なぜ?」ではなく「何が?」を考える思考法です。
Why思考:「なぜあんなミスしてしまったんだろう…」
↓
What思考:「何がミスの原因なのだろうか?」
この思考の違いは微差に見えるかも知れませんが、大きく違います。それは見ている対象です。Why思考の「なぜ」は自分に矢印が向き、What思考の「何」は自分以外の問題そのものに矢印を向けています。
「 なぜ 」を「 なに 」に変えるだけで、自分を責める思考から、自分と切り離した問題の対象に意識を向けることができます。
これは実は非常に建設的な考え方と言えます。仕事は組織やチームで動いていることがほとんどです。つまり仕事上のミスはその組織、そのチームが生んでしまったミスです。たとえそれが人為的なミスであっても、「仕組み」で解決するのが再発防止には重要となります。
そう考えると、「なぜ?」で個人に矢印を向けるより、「なに?」で問題が発生した対象に矢印を向ける方が、建設的な解決策にたどり着きやすいです。そして何より、チームメンバーの精神衛生上も好ましいアプローチと言えます。
Why思考のもう一つの弱点
Why思考はビジネスの意義や仕事の目的をグリップする上で有効ですが、問題を特定し解決するアプローチでは使いにくい側面もあります。それは捉えるスコープが広すぎるという問題です。
「なぜあんなミスしてしまったんだろう…」という問いには実は答えが無数考えられます。個人の能力、準備の問題、プロセスの問題、組織風土の問題、タイミングの悪さ・・・などなど、答えを考え出したらキリがありません。
そしてたいていのケースでは、複数の要因が絡み合って問題になっているケースが多いです。絡み合っているがゆえに、シンプルな解決策にたどり着かない。結果、「やっぱり自分が悪いんだ…」と個人に帰着してしまいがちです。
その点、What思考の「何」は対象をシャープに切り取り、具体的に考えやすいです。「担当者に経験がなかったこと」、「確認プロセスを踏まなかったこと」など具体的に仮説を立てられます。
こうなると、「経験を積めるように勉強会を実施する」、「事前確認のミーティングを開く」など打ち手も具体的に見えてきます。問題解決に一歩近づいていけるのです。
妄想のWhy、現実のWhat
why思考は、創造性を育て、様々なイノベーションに役立つ思考です。しかし、前述の通り、答えを無数に考えられることが多く、「妄想」に入りやすい思考と言えます。
一方でWhat思考は、「今ここで起こっていること」にフォーカスを当てる、現実的な思考です。
妄想のWhy思考
現実のWhat思考
2つの思考にはこうした違いが明確にあると理解しておくと良いです。こう理解することで、「目の前の作業(現実)に意識を向けすぎ…」と感じたらWhy思考にスイッチし、「答えが無数にある妄想に入り込んでいる…」とっ感じたらWhat思考にスイッチを切り替えることができます。
どちらが優れているか、ではなく両方にそれぞれ利点があり、置かれている状況に合わせて上手に使い分ける、というスタンスをとるのが理想ですね。
まとめ
日々生活していると、反省や後悔をするシーンに出くわします。そうした失敗も経験の一つですし、それを乗り越えて一皮むけた自分に成長していくという意味でもそれ自体は悪い事ではありません。
ただ、妄想の世界の中で過剰に自分を傷つけているケースも多いように思います。
ミスを反省し改善していくアプローチでは無数に考える妄想モードのWhy思考よりも、現実的に問題を特定していくWhat思考が有効です。そうすることで、個人と問題を切り離すことができ、やみくもに自分を傷つけずに済みます。
妄想のWhy思考、現実のWhat思考。これら2つの思考は得意分野が異なります。ゆえに使い方を誤るとマイナスの効果も大きいです。それぞれの特徴を理解して、今いる自分が置かれている環境に合わせてうまく使い分けていきましょう。
「なぜ」か「なに」か。たった1文字の違いですが、その先に待っている世界は大きく違います。上手に使いこなしていけたら良いですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。