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【題名の無い物語り】テーマ:赤い手袋(お題モドキ)

煙突掃除の少年が迷子の女の子と出会いました。でも、少年はこの女の子を何度か見たことがありました。もちろん女の子は少年の事をしりません。
だって、少年はいつも高い屋根の上の煙突の掃除をしているからです。

今日も街に雪が降っています。少年は雪の冷たさで凍えた手を擦り合わせ自分の息を吹きかけています。少年は振り散る真っ白な雪を恨めしそうに見ていました。
すると、こんな話声が聞こえてきました。どうやら、この家に住む女の子が遊びに行ったきり帰ってこないと。もうすぐ夜の帳が街を覆う事でしょう。



もうすぐ煙突の掃除が終わる。空を見上げては煙突に視線を戻す。途中で投げ出すわけにはいかないし、どうしようか。はっとし、考えている暇があったら手を動かせ! そう焦る己を叱咤する。掃除を終えひと息つく。
そして、家主に掃除が終わったことを告げて少年は早足で駆けだした。親方にも報告しなければならないし、急ぐつもりで近道を使う。

そう少年は煙突掃除のプロだ。やることは1つしかないと、少年が取った行動は、幾つもの屋根を伝っていくことだ。
その際にも少年の目は地上を忙しなく見つめている。高い場所からなら、迷子の女の子も見つけやすいいだろうと、そう考えてのことでもあった。

どれくらいの屋根を超えただろうか? いつもより倍は越えた気がする。
いつもの煙突掃除は1日3件か4件が限度だ。まぁ今回は煙突の掃除を全て終えたあとなので、既に少年の体力も限界に近いが、それでも気力を振り絞っている。
どこにいる? 忙しなく目と首を動かす。息継ぎも途切れ途切れに、何故なら、足元の雪もそうだが、雪が先程より強く降りつけて少年の体力を容赦なく奪っていく。
なにより、此処は屋根の上だ。雪に足を取られないよう慎重に進もうとすれば足取りも重くなる。
だがそれよりもだ、女の子が迷子になってからどのぐらいの時間が経っているのだろうか? この雪の中心細いだろうに不安で胸が一杯だろうに、泣いている……かもしれない。

はぁ、はぁ、くそっ! 前が霞む。
片腕で吹き付ける雪を払い、もう片方の手でバランスをとりながら屋根の上を進んでいく。
すると、微かにだが……雪の吹き付ける音に紛れて声が聞こえる。
雪は水の結晶だ、雪に含まれている水分が振動となって音を拡散しているのだろうか?

少年は近くにある煙突の場所へとなんとか移動した。煙突に備え付けられている梯子に手を掛けて、息を整える。荒く息を続けていた所為で喉がカラカラに乾いて、喉が引き攣るように痛い。雪を掴んで口に放りこみ整える。

――そして、煙突の上に立ち遠くへと視線向けるのであった。

周囲は真っ白な銀世界、そんな中に小さな赤い点をも見つける。周りに人の気配も感じない。

「見つけた……!」

勢いよく梯子から飛び降り屋根を滑り落ちるように下っていき、あとは地面に着地するだけ。
そう思って屋根の端から地面に飛び降りようとしたら、運悪くそこに障害物があったことに気付き方向転換しようと思ったが、その瞬間!?
雪に足を奪われ障害物と接触してしまう。(漸くみつけたのに……と呟くも)そのまま意識が遠のいた――。

どのぐらい意識を失っていたのか、少年は突如顔に降りかかった冷たい塊に驚いて起き上がる。
「痛っ……!」ズキっと痛む額に手を当てる。
すると、視界が若干赤いことに気付き、痛みの元に指先で触れた。ぬるっとした生暖かい液体が冷たさで凍えた指先が更に赤く染まった。どうやら怪我を負ったらしい、そして体中が痛い。
打ち身だと思うが、雪がクッションにならなかったら、と思ったら全身が震えた。

だが、そこへ……先ほどよりも鮮明に聞こえた声に、ばっと顔を上げて、雪に身体を擦りつけるように立ち上がった。その勢いで血が拭われた。
痛みを引きづるように雪道を歩く。雪は先程の激しさは鳴りを潜めてしとしとと降っている。
漸く、しっかりと目視できる範囲まで近づいて、はっきりとした口調で

「お嬢様、漸く見つけました。さっ、帰りましょ? ご両親が心配なさっていますよ?」 

一応、子供と言えど少年にしてみれば目の上の存在だ。

突然声を掛けられて驚く女の子。ひっく、ひっくと嗚咽を漏らしながら、ゆっくりと振り返る。 よほど心細かったのだろう……誰、と気を止めることなく駆け出し飛びついてしがみついてくと、そして、一際大きな声で鳴き出した。

「だれもいなくて、ゆきでみえなくて、おとがすごくて……さむくて、さむくて……」
わんわん泣く女の子を少年はふわりと抱きしめて優しい声で「よく、がんばったな。えらいぞ!もう大丈夫だ、お兄ちゃんがお家へ連れて行ってあげるからな、もう少しの辛抱だ」
そう言って女の子を抱き上げてはよしよしと背中を優しく撫でなながら帰路へと。

少年もここまで来る間にもいろいろあった。怪我もした。
でも、目的が果たせたことに安堵した。

最後は、無事女の子を御両親のもとへ届けた。お礼を言われ、温かな料理も頂いた。そして、帰ろうとした時だった、疲れ果てて途中で眠ってしまった女の子が、母親の腕の中で目を覚まして、とてとてと少年の元へ駆けより笑みを浮かべると、こう告げた。
「えんとつのお兄ちゃん、お迎えに来てくれてありがとうね」とお礼を言われた。
「無事でよかった。今度からは気を付けるんだぞ?」と頭を撫でる。

そして女の子が何を思ったのか、自分が嵌めていた"赤い手袋"を少年の手に嵌めた。
まぁ、多少ちっさいのはご愛敬。ゆらゆらと揺れるぼんぼんが少年の手を飾る。

(赤い手袋の代わりに林檎で表現)


「雪さんはきれいだけど、つめたいから、あげる。ありがとね!」
にぱっと笑顔を浮かべた。女の子からのお礼の意味を込めたプレゼントだったのだろう。


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