初めての春野さん
初めて生で春野さんを見たのは去年の秋だった。渋谷のwwwxでのライブ。高校生の時から毎日聴いている人をやっと生で見ることができる、その喜びが全身を包んでいた。
楽しみすぎて開場の1時間前には会場に着いてしまった。たまたま春野さんが歩いていたりしないかな、という淡い希望も抱いていたと思う。
入場して自分の席に座って、始まる時をひたすら待つ。座ったのはもちろん最前席だった。最前、しかも中央をとることができたので小さくガッツポーズをした。
自分の後ろに続々と人が集まってきているのを感じながら、僕はじっと舞台袖を見つめていた。今まさに袖で気持ちを整えているところだろうか、とそこにいるはずの大好きな人を想像していた。
ふとスマホを見るとライブ開始の18:00になっていた。電気が落ちて、騒がしかった観客が息を止める。一瞬にして暗闇が降りてきた。
春野さんの「when u were there」がフェードインしてくる。
体を震わせるほどの力強く重いキックが会場に響く。圧倒されて少しのけぞった。
何かが迫ってくるような感覚に空間が支配されているのを感じていると、舞台袖のカーテンが開いた。
一つの影が舞台の中心へ一歩ずつ進んでいく。
足取りは軽く、少し前屈みの姿勢は、自分をミステリアスに演出しているようだった。
舞台にポツンと置かれた赤いボディーのシンセの前に春野さんはスッと座った。慣れた手つきで椅子を調整し、鍵盤に指をそわせる。
すーっという深い深呼吸が微かに聞こえたと思うと同時にbgmが止まった。
柔らかに滑り出した指が鍵盤を押し込むと、この4年聞き馴染んだ音が静寂に放たれた。
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