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第76話 世界の終わりを君に捧ぐ 序 3
翌日の早朝、アルマさんを待つ間、ホテルの周辺の景色と街の人々の写真を撮影しながら尾張さんと二人で散策する。
「僕たちなんか目立ってません?」
「紀美丹君が高そうなカメラ持ってるから狙われてるんじゃない?」
尾張さんが、適当に返事をしながら、市場で売られている、日本では見かけないような野菜を物色する。
「いや、どちらかというと、尾張さんが見られているような・・・・・・。」
「私を見れる人がそうそういるわけ・・・・・・。」
お店の人が、現地の言葉で話しかけてくる。尾張さんは、いつの間に覚えたのか、現地の言葉が聞き取れるようで、簡単な受け答えをして、その場を離れる。
「見えてるわね。」
「見えてますね。」
尾張さんの現在の服装は、いつもの学生服であるが、どうやらここでは、悪目立ちするようだった。
「尾張さん。」
「わかってるわよ。」
そういうと、尾張さんは民族衣装を扱っている店舗を目指して歩いていく。
しばらくすると、大きな布を纏ったような現地の民族衣装で店から出てきた。
「そこまでする必要ありますかね?」
「念には念を入れた方がいいかと思って。」
そんな事を言っているが、実際は着たかっただけだろうなぁ。と青年は考えたが、言えばめんどくさそうなので、
「似合ってますね。」
とだけ感想を言うに留める。少女は、
「あら、ありがとう。」
とだけ言うと、その場でくるりと回って礼をする。
ヒラヒラとした布がフワリと広がり、白い素肌が一瞬見える。
不覚にも、ドキッとしながら、
「そろそろ戻りましょう。アルマさんがくる時間ですし。」
と誤魔化すように言う。
尾張さんは、上機嫌で僕の隣を歩きながら、時折民族衣装の布を僕の左腕にぶつけてきた。
ホテルに着いた時、既にアルマさんはそこに来ていた。
「すいません。お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、今来たところです。それに、約束の時間には早いですから。」
アルマさんは、簡単な挨拶の後、本題に入る。
「ところで、今日は戦闘地域の撮影がしたいということでしたが。本当に行くんですか?命の保証はできませんよ?」
「はい。お願いします。」
わかりました。と言うと、アルマさんは何やら紙とペンを懐から取り出す。
「では、こちらにサインをお願いします。」
「誓約書ですか。」
まぁ、当然か。その誓約書は日本語で、もし契約者が死亡しても、自己責任であるという旨が書かれていた。
誓約書にサインをしながら、質問する。
「ちなみに、今まで誰か亡くなったりは?」
アルマさんは、
「ぼちぼちです。」
と、使い方は間違ってるのに、意味が通じてしまう日本語で答えてくれた。
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