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第77話 世界の終わりを君に捧ぐ 破 1
ホテルのすぐ目の前に停車していたジープに乗り込む。
「昨日とは違う車なんですね。」
「場所が場所ですからね。昨日みたいな普通車だと、色々と問題がありますから。」
アルマさんは、運転手に何か指示を出しながら、僕の呟きに返答する。
「ところで、尾張さんのその格好は・・・・・・。」
「何か問題ありますか?」
アルマさんは、首を傾げながら、
「動き辛くないですか?いざという時、慣れない格好だと大変だと思いますよ?」
そういうアルマさんの格好も一見、民族衣装のようだが、所々動きやすいように布を削っているようだった。
「お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫です。」
尾張さんは、ヒラヒラと布をたなびかせながら、返答する。
尾張さんは、もう死んでるから、現代兵器とか意味ないし。危険といっても、同じ幽霊が襲ってきたときぐらいだろうなぁ。
僕のそんな視線に気づいたのか、尾張さんが、
「何か言いたいことがあるのかしら。紀美丹君?」
と冷たい笑顔を向けてくる。
「いえ、ちょっとした疑問なんですが、この国にも幽霊っているんですかね?」
「幽霊、ですか?」
アルマさんが聞き覚えのない単語を聞いたというような顔をしていた。
幽霊を知らない?
話を聞いてみると、どうやらこの国の宗教観では、人が死んだあと霊体になって勝手に動き出すという事はありえないらしい。
いや、日本でも空想上の存在であるはずなんだけど。
目の前に実物がいる状況で、幽霊は存在しないという考え方を聞くのはどうにもおかしな気分になった。
「ただ時々、死んでも戦い続ける兵士がいるという話をする人はいます。」
「どういうことですか?」
僕の疑問にアルマさんは、
「大戦中に亡くなった人が未だに紛争が起こると現れて、敵の兵士と戦ってくれるって退役した軍人の人が言ってました。」
その人、酔っ払いでしたけど。とアルマさんが付け足す。
「ただその人は、こうも言ってました。」
曰く、奴らは厄介だ。奴らを見つけても、トラウマだとか、薬の副作用だとか言われて取り合ってもらえない。だから、相手にしないに限る。
「まぁ、酔っ払いの妄言なので、信頼性は低いですけど。」
そういうアルマさんは、懐かしい記憶を思い出しているのか、遠くを見つめながら微笑んでいた。
二時間程かかって、目的の場所に着いた。
「外に出ても大丈夫ですか?」
「今は、一時的に戦闘が止んでるみたいですけど、いつ始まるかわかりませんから、細心の注意を払って行動してください。」
わかりました。と言いながら、カメラを持ち車外に出る。
そこは、過去に民家が複数存在したであろうことが窺える廃虚で、戦闘の名残であろう弾痕の跡が生々しく残る場所だった。
「住民は見当たらないですね。」
「その辺の廃虚に隠れてたりするんじゃないかしら。」
尾張さんは無遠慮にその辺の廃虚の中を覗く。
「あ、いた。」
「え?」
そこにいたのは、小さな男の子だった。
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