第7話 非公式な会合
翌日の放課後。尾張さんに元文芸部の部室(不法占拠)に呼び出される。
「よく、来たわね。紀美丹君。時間通りに来るなんて殊勝な態度ね。」
「・・・・・・この手紙どういうつもりですか?」
一枚の便箋を尾張さんに突きつける。
「私、基本的に無償の善意って信用してないのよ。」
「だからって、これはないでしょう。」
手紙には、綺麗な文字で、
『あなたのスマホは預かった。返して欲しければ、旧文芸部部室まで午後5時まで、来られたし。尾張 恋』
と書いてあった。
「一体いつのまにとったんですか!肌身離さず持っていたはずなのに!」
尾張さんは薄く微笑むと、
「乙女には、秘密が一杯なのよ。」
とだけ言うと、どこからともなくスマホを取り出す。
「何が秘密ですか!僕のスマホさっさと返してください!」
「まだだめよ。まずは、私の相談を聞いてもらうわ。」
「それが、相談者の態度ですか!そんな態度だと、もう帰りますよ僕!」
「あら、良いのかしら。スマホ返さなくても。」
「別にスマホが無くても死なないですし。」
「ゲーム依存症の紀美丹君らしからぬ発言ね。」
「誰がゲーム依存症ですか!ゲームなんていつだって辞められますよ!」
そういうと、踵を返してドアまで歩きだす。
「ログインボーナス。」
ドアに伸ばしていた手が止まる。
「良いのかしら。今日で、連続ログイン記録更新するのでしょう?」
頬を嫌な汗が伝う。
「どうして・・・・・・知っているんですか?」
「言ったでしょう?乙女には秘密があるものなのよ。ただ、一つだけ忠告させてもらうと、暗証番号、誕生日はやめた方が良いと思うわ。」
「見たんですか?スマホの中。」
尾張さんはただ薄く微笑んでいた。
「わかりました。もう、どうにでもしてください。」
「わかってくれて、嬉しいわ。」
そういう彼女は、傍目からは天使のような笑顔で、僕には悪魔のように見えた。
「それで、相談ってなんなんですか?」
「椎堂鷲見-シドウスミ-さん。知ってるわよね。」
「知ってますよ。尾張さんがブロックされた、学年2位の彼女ですよね。」
そう言った時の尾張さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「・・・・・・えぇ。その椎堂さんであってるわ。」
「彼女がどうしたんですか?」
「仲直りしたいのよ。」
「無理だと思います。」
「このスマホどうしようかしら。」
「僕に任せてください。」
「そう言ってくれると思っていたわ。」
卑怯な。スマホを人質にするなんて。