第13話 確かなもの
なにも、言えなかった。
「先月、帰り道で通り魔に殺されたって。あなたの方が詳しいはずでしょ?紀美丹君。」
そう、彼女は僕と買い物に行った日に
帰り道で別れた後、通り魔に殺された。そして、その犯人はまだ捕まっていない。
「ねぇ、大丈夫?紀美丹君。あなた、尾張さんととても仲が良かったから、ショックなのはわかるけど、でも。」
死んだ人はもう、戻っては来ないのよ。そういう椎堂さんの言葉は、僕を揺さぶる。
「たしかに、彼女は殺されました。でも!いるんです!そこに!」
「どこに?」
そういう椎堂さんの目には本当に尾張さんの姿は写っていないようだった。
「いるんですよ!ここに!見てください!ちゃんと、存在してる!尾張さんは、」
いるんです。そう続ける少年をみる、椎堂さんの表情は、次第に険しくなっていく。
「紀美丹君。あなた、ちゃんとカウンセリングは受けてる?あの事件の後、学校側でも、対応してくれてるはずだけど。」
その言葉に、僕は衝撃を受けた。
僕がおかしいのだろうか。いや、たしかに、実際におかしいのだろう。死んだ人が見えるだなんて。
最初に彼女を見たときは、恐怖した。
彼女が僕との思い出を覚えていなかったことは悲しかった。
だけど、彼女と話すのはそれでも楽しかった。
それらすべて、ただの妄想だったとでもいうのだろうか。
僕は、確かなものを求めて手を伸ばす。その手は、俯く少女の背中に触れる。
「ひゃっ!」
可愛らしい悲鳴が聞こえた。
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