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第82話 世界の終わりを君に捧ぐ 急 3
自爆テロのニュースが報じられてから数日後の休日。
いまだ、彼からの連絡はない。
国外に行っている間、彼の連絡が途絶えるのはいつものことではあるが、今回は事情が違った。
「まさか、本当に巻き込まれたんじゃないよね。」
そんな呟きが、つい口から溢れる。
ありえないと否定してくれる誰かを求めるように。
ティーパックをコップに入れ、ポットからお湯を注ぐ。
湯気が立ち上り、冷え切った両手を温めるようにコップを包む。
その時、時計の針の音が響くアパートの一室に、インターホンの無機質な音が鳴り響く。
まだ、口をつけていない紅茶を机に残して、玄関に向かう。
ドアを開けると、そこには、苦笑いを浮かべる青年と、微笑む少女の姿があった。
普段着に身を包む女性は眼を大きく見開き、口元を押さえると、やがて眼を潤ませながら、前に進み出る。
「紀美丹君!」
そして、気まずそうに頬をかく青年に抱きつく。
「よかった。ニュースで邦人が自爆テロに巻き込まれたって言ってたから、紀美丹君たちが巻き込まれたんじゃないかと・・・・・・。」
青年は、微笑むとなにも言わずに女性を抱きしめる。
「紀美丹君?」
それを見つめる少女は、薄く微笑むと、
「紀美丹君。」
と青年に声をかける。
青年は、女性を一度抱きしめると、少女のほうへ向きなおる。
これは、世界の終わりを望んだ少女と、世界の終わりを愛する人に捧げ続けた少年の、終わらない世界で綴られる物語。
彼らの歩みは止まらない。
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