あの日 あの時 ~遡り自叙伝的な~
1話 退職「願」
決断!というのでなく、心境がおもむくまま無自覚な気持ちで、上司と話をする朝、おもむろに自宅で書いたと思う。退職願1枚もの横書き。
これまでの間、それを全く考えずに勤めてきた訳ではなかった。そして知識として一方的な届け出ではなく、任命権者の承認を得る手続きになるんだろうと理解していた。
確か、「一身上の都合により退職を申し出たく、ご承認いただきますようお願い申し上げます」と書いたと思う。
当日の午後。職場の外に出て上司と会い喫茶店へ。そこで封筒に入れたものを出した。上司は冷静な表情と言葉で2つのことを言ったと思う。「預かります」と「この文章は何かで調べて書いたのか」いうような簡単な質問。なにせ、会議室とかじゃないから、簡単な返答と頭を下げただけだった。
数日後、別の上司と面会。『ひな形』(文例)を持ってきたので、このように書いて出してとのことだった。理由の個所が変わっていることはすぐに分かったが、それを聞くことにさしたる感情もなかったので、そのまま受け取り、後日、出した。
その2週間後くらいの当月末付けで、僕は退職しました。
最初に渡した上司には、「あなたとは今後も関わっていきたい、年が明けたらまた連絡をしたい」旨、発令書受け取りの後に言われた。自然と涙が滲んだ(このことは次回詳述)。
別れた後、夜だったのだが、数キロ続く線路沿いの専用歩道を歩く。吐く息は白くなっていた。風のない静かな、そして、まっすぐな道。「これで終わった」と思った。
それとは違う日に、別の上司から、私物を引き取るよう言われたが、全て処分願いますと一旦、答えた。しかし、平日最後の日に、自分が立会するので引き取るよう言われ、1時間位かけてだっただろうか、持ち帰る私物、廃棄すべき書類、引き継ぐべき書類を分けて引き上げる。礼に菓子を置いていった。今でも覚えている光景は、守衛室を抜けて暗闇の外に出たところ。
脱力感だけだった。