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あの日 あの時

2話 後悔のない生き方をしろ

 ボロボロだった。

 職場の席に着く。処理しなければいけない業務がある。あるのだ。けれども、この書類をどう処理したらいいか、見当をつけることができなくて、それはネットで一生懸命に調べてもまとまらない。人に聞く。それが早いのだろうことは分かるけども、皆も忙しい。時間だけ過ぎていく。他に処理して欲しい業務も言われていた。

 聞くに聞けないしんどさ、一人、廊下で作業する中を他課含めた人達がせわしなく過ぎていく、その情けなさ・・・。分かるだろうか?

 ある時、廊下作業時に上司が『何をしてるの?』と声を掛けられる。つとめて繕い話す。上司は離れ、エレベーターホールで誰かと楽しげに話していた。虚しかったな。

 業務はさっぱり進められず、期限のあるものもあり、上司から進捗を聞かれ、結果、若手に仕事は振られた。毎日、申し訳ない気持ちで職場にチョコンといたと思う。

 この時期、ベッドで寝ることはしていなかった。朝を迎えるのが怖くて、居間にいて、そこに枕とタオルケットと目覚まし時計を持ってくる。極端に早い時間に横になる日もあれば、そうでない日もあったと思う。居間で寝るときのカーペットの感触。忘れることはできない。

 つねおという人がいる。

 ある週末の午後、彼を自宅に招くことにした。彼に一番に伝えようとしたからだ。直前にコンビニでコーヒーを買っておくことにした。

 『俺は辞めようと思う。つねおには色々と気を遣ってもらったのに申し訳ない。』

 僕は彼に深く頭を下げた。彼への信頼や信用が揺らいだ時もあった。けれど、このことは彼に最初に伝えるべきと思った。

 『後悔のない生き方をしろ』彼はいつもの静かな口調で、そう言った。

 こんな大事な話以外、他に何か話すこともない。簡単な会話はあったと思うけど、覚えていない。

 いままでの職業生活が走馬灯のように駆け巡った。多くの人達と関わらせてもらったこと、面白い仕事をさせてもらったこと、各地に住んだこと、関係する多くの人達を思えば心苦しいし、お世話になった年上の人達より先に退職することは、1年前には想像もしていなかったことだ。

 だけど、心身ともに仕事と向き合えない以上、僕はそれしか選択肢はなかった。

 そうして、報告儀礼を終えた。


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