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君が見る世界、僕が見る君 #06

放課後の邂逅2

 教室を出て、扉を閉める。廊下を歩き出し数歩進んだ頃に思い出す。
「ヤバかったーー」
 扉が開く音で実は目が覚めていた。寝たフリをしてビックリさせるつもりだった。でも、眼を瞑っていては、周りの状況がわからない。そんな事を思いながら、タイミングを測っていた。
 悩んだ結果ここだと思うタイミングで、目を覚ましてみたら、ティターニアさんは僕の顔を覗き込んでいた。それに、なぜか手を伸ばしていた。
 僕は動揺しつつも、冷静になるため、咄嗟に外に出る口実として、飲み物を買うと言ってしまった。
 大丈夫だったよな、できるだけ冷静に対応できてたよな。自分に言い聞かせる様に確かめる。
 自販機は食堂の手前に何台か置いてある。教室での出来事を考えて、頭の中ぐるぐるしているといつの間にか着いていた。
「は〜〜、」
何となくため息をつきたい気分だ。過去の記憶があるからって、精神的に成長してるわけではない。心はただの高校2年生のままだ。
 自販機の前で立ち尽くす。
 何かを買いたくて来たわけでは無いが、何か買わないと怪しまれる。どうしたものか。
「ヒメだ!お疲れ、何してんの?」
 背後から知ってる声が聞こえて振り向く。僕をそう呼ぶのは1人しかいない。
「おう、三島。お疲れ、部活か」
 三島はバトミントン部だ。スポーツ用のTシャツに短パン、普段は下ろしてる髪を後ろで結んでいる。三島のこだわりなのだろうが、前髪と触覚は綺麗に整えられている。崩れたところを見たことがない。
「うん、休憩中ー。スポドリ買おうと思って。珍しいね、いつも苺ミルクで即決なのに、迷ってるなんて」
そうか、僕はいつも苺ミルクか、意識したことなかったな。
「別にいつもって訳ではないだろ、時々買う時はそうかもだけど」
 そう言いつつ、苺ミルクを買う。ティターニアさんの分のお茶も買わないと。
「あんた、2本飲むの?」
「ティターニアさんの分」
「なんで、恵莉ちゃんの分も買うの?もうパシリになったの?」
なぜ、最初の発想がパシリなのか、抗議したい。
「僕が買いに行くから、何か欲しいの有るかって聞いたの」
「じゃあ、恵莉ちゃんまだ教室に居るの?今から会いに行って良い?」
「部活あるだろ。後で体育館行くから、声かけるよ」
「仕方ない、それで手を打ってあげる」
渋々承知されたらしい。
「じゃあ、教室戻るから」
「じゃあね、恵莉ちゃん連れて来てよ」
「あいよ〜」
 校舎内を誰かが走る音がする。放課後の学校はなんとなく懐かしさを感じる。
 体育館からは部活動の歓声が聞こえ、校庭からはランニングの調子を合わせた声。何処からともなく奏でられる、金管楽器の演奏。秩序と無秩序が入り混じる、不思議な空間と時間が流れる。
 そんな詩的な事を考えていると、教室に着いた。
「すまん、待たせたな。これお茶ね、色々種類あって詳しく聞かなかったから、僕が好きなルイボスティーにしたんだけど、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です」
「そりゃ良かった。」
 スコットランドってルイボスティー飲むのかな。
「学校案内とか言ったけど、ざっくりぐるっと回るだけで、そもそもそんなに大きくないからこの学校、すぐ終わるよ」
僕達は飲み物を持って教室を出た。

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