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君が見る世界、僕が見る君 #01

長くなってしまった出会い

 高校2年生の夏がもう終わろうとしている。
「あ〜あ、夏休みも後1週間で終わりか・・・」
 僕は部屋の壁にかけられた大きめなカレンダーを見て項垂れる。机の上には夏休みの宿題が積み上げられ、1ヶ月半手をつけなかった代償がまざまざと未来の自分へのしかかる。
 そんな景色を横目にスマホを見てしまうのは、現代の若者が抱える病気に近いものかもしれない。何かするわけでも無くただスマホを取ってしまうので、なんとなく写真フォルダを開いた。一番最近撮った写真は、学校の友人に連れられ夏のコミケに行った時のだ。
「あんときは、暑くて死にそうだったな〜」
思い出に浸ることで現実逃避に成功している。という客観視している時点で、宿題をやっていない罪悪感は現実逃避では拭えないことも、承知している。
 写真を見ていると、最初は、会場の外の光景が珍しくて撮ったものから、会場の中の様子を撮ったものになり、唐突にコスプレイヤーの写真に切り替わる。元々アニメや漫画はそれなりに見てるし知ってるが、友人の知識量には勝てない。なので大抵の写真は可愛いなとか、かっこいいな、なんだそれと思うネタ的なものまで、目についたもの全てを撮ったような気がする。
 しかし、見ているとやはり男だ、原作は知らないが可愛い人のコスプレ写真が、なんか多い気がすることも否めない。
 十分に現実逃避したところで、目の前に広がる地獄は変わっていない。少しは手をつけて減らしておけば、未来の自分が感謝するだろうという気持ちで、宿題を始める。

 たらら〜ん
「うお、びっくりしたー」
22時のアラームが鳴った。昔からの習慣でこの時間に携帯のアラームをかけて、ずっとそのままになっている。そろそろ寝るか。

・・・
ここは、、、海岸沿いの道、、、防波堤に人が立ってる、、、
「君、見過ぎ」
銀髪、、、珍しい、、、海外の人かな
「髪は元からだし、目もそんなに言われると恥ずかしい」
「そんなこと、、、言って」
「「ない。」じゃあね」
「多分、、、また会えるよ。」
え、、、ちょっと、、、君は
視界が廻る
・・・

 バン!!
「いってーー」
ベットから落ちた。そんなの漫画だけの話かと思っていたが、本当に落ちた。
「なんだったんだ、さっきの夢」
 昔の記憶にあったような、でも顔がはっきり思い出せない。髪が銀色だったのは印象的だったけど、名前も年齢も知らない。そもそも実在する人なのかも怪しい。
 コンコン
「すごい音したけど、大丈夫?」母さんだ。
「大丈夫、大丈夫、ベット端の方で寝ちゃってたみたい」
夢に踊らされたとか、話すとややこしいので、それっぽいことを言った。
「怪我してないならいいけど。朝ごはんできてるわよ」
「オーケー、用意してから行くよ」

 それから、1週間はあっという間に過ぎ、今日が休み明け最初の登校日になった。ちなみに宿題はギリギリで終わらせた。
 学校が近づくにつれて、久しぶりに会う友達同士、挨拶している光景をあちこちで見る。これから毎朝起きて、学校に行く生活が始まるのかと想像すると、もう嫌になる。
 教室に着くとすでにアイツは席に座っている。いつも通りお早い登校である。
「志麻場先生、おはよう!久しぶり!」そう言いながら、前の席に後ろ向きで座る。
「おはよう、嘉島。その先生呼びやめろって言ってるだろ」
メガネを直しながらそう言われても、説得力がない。雰囲気が先生を醸し出している。
「それに、厳密に言えば久しぶりでもない。コミケで会ってるからな」
「いやー、その説は、どうもお世話になりました」
実は、コミケに誘ってくれたのは志麻場なので2、3週間前に会っている。
「それに、いいんだよ、周りのみんなは、そこらじゅうで「久しぶりー」って言ってんだから、それに合わせとけば」
「ふ、周りに合わせるか、お前のスタンスは知ってるからな、何も言わないことにする」
「それはそれは、ありがたいことでー」
 いつもの様に一悶着やった後で、座り直そうとしたとき、志麻場は読んでいたラノベを机に伏せて、一定のリズムで言った。
「そうだ、今日転校生が来るらしい」
「え!まじか。いや、そういう時って、もっと何か感情を込めて言うんじゃないのか」
「いや別に、そうとも限らんだろ」
「で、どんな奴なんだ、俺に言うってことは、なんか情報があるんだろ」
「それが、全然情報がないんだ。みんなが唯一分かっているのが、海外から来てるって事ぐらいで、男なのか女なのかすら分かっていない」
「まじか、トップシークレットってやつだな」
「だが、僕の独自情報で言えるのは、海外はほぼ当たりで、女子だと言うこと。そしてもう一つ、分かっている事は、このクラスに来るって事ぐらいだな」
「え、このクラスに、」
 ここで、チャイムが鳴った。みんなが一斉に自分の席に座り、担任の先生が教室に入って来た。
「朝のホームルームを始める。日直挨拶」
「はい、起立、気をつけ、礼」
「「「おはようございます」」」
「着席」
「みんな、おはよう。夏休み明けで感覚がズレている人が多いと思う。でもな、受験とか就職とか考え始める時期でもある。緩んだネジ締め直して残りの学校生活送るように。」
 クラスメイトの1人が手を挙げる「はい先生、転校生は本当に来るんですか」。いきなり放り込まれた発言でクラスはざわつきはじめる。「私男子でイケメンがいい」「可愛い子、可愛い子」祈ってるやつもいる。
 先生は驚きつつも冷静に返答する。
「はいはい、静かに。情報が漏れているのはなんとなく知っていた。確かに今日このクラスに転校生が来る。自己紹介してもらうから、一旦落ち着けーー」
 しばらくの間ざわつきは収まらず、知っていた僕は特に興味もわかず窓の外を見ていた。どうせ、転校生とは挨拶ぐらいで、何も無く卒業するのがオチだ。波風や劇的なことなど起きない、それが僕の人生であり経験だ。
「入ってきていいぞ」先生の合図で扉が開く。
 扉が開く音、閉まる音、そして足音がやけにはっきりと聞こえる。どうしたものかと教卓の方へ視線を送ると、1人の女生徒が歩いていた。
 そして思わず、つぶやいてしまった。
 「夢で観たあの人だ」

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