小説「灰罪の権座2」
第１章: 灰色の手紙
一方、ジャーナリストの佐伯真奈美は、東京都心の雑然とした編集部で記事の締め切りに追われていた。机の上には山積みの資料と、半分飲みかけのコーヒーカップが置かれている。
「真奈美、あの記事の進捗はどうだ？」
編集長が背後から声をかけてきた。真奈美は一瞬顔を上げ、慌ててディスプレイに目を戻した。
「あと少しです。この件、重要なのでしっかり調べておきたいんです。」
「いいだろう。ただし、明日の朝イチで頼むぞ。」
編集長が立ち去ると、真奈美は深いため息をついた。彼女は、政治家と大企業の癒着を追う記事を書いていた。だが、それは表に出ている事実だけではなく、裏に隠された闇を掘り起こす作業でもあった。
「どこかに、決定的な証拠があるはず…」
真奈美はそう呟きながら、手元のメモ帳をめくった。その中には、いくつかの名前がリストアップされていた。その中の一つに「北条修一」の名前が書かれている。
「この人も、その闇の一部なのか。」
真奈美は北条の名が連なる利権構造のリストを見つめた。その直後、スマートフォンが震えた。画面を見ると、表示されていたのは「浅間涼」からの着信だった。
警視庁特別捜査課の刑事、松永健司は北条修一議員の死についての報告書を机に置き、頭を抱えていた。事件は「不審火による事故」とされていたが、松永にはどうしても納得がいかなかった。
「これは事故なんかじゃない。何かがおかしい。」
松永は事件現場の写真を見つめながら呟いた。北条の額に刻まれた灰色の円。その奇妙な特徴が彼の心を捉えて離さなかった。
同僚が近づいてきて声をかけた。
「松永さん、これ以上突っ込むと面倒なことになりますよ。上からも、この件は早く片付けろって。」
「わかってる。でも、真実を明らかにしないと、また同じことが起きる。」
彼は執念深く捜査を続ける決意を固めていた。背後にどんな圧力があろうとも、この事件の真相を暴くために動くつもりだった。
与党幹部の榊原圭一は、北条修一の死のニュースを聞きながら、表情を一切変えなかった。彼のオフィスは静まり返り、部屋の中には緊張感が漂っていた。
「まさか…ここまで手を回すとは。」
榊原は北条の名前が刻まれたメモを机の引き出しにしまいながら呟いた。彼は「灰色の権座」の中でも中心的な存在であり、今回の事件が組織全体に影響を及ぼす可能性を危惧していた。
彼の机の上には、浅間涼の名前が記された資料が置かれている。榊原はその資料を見つめ、電話を取り上げた。
「対策を急げ。次は彼だ。」
低く冷徹な声が、静かな部屋に響いた。
ノートの内容に頭を悩ませながら、涼は大学時代の同級生でジャーナリストの佐伯真奈美に連絡を取ることを決意した。彼女は以前から政治や社会問題を追い続け、いくつかの大きなスクープを成功させてきた実力派だった。
「真奈美…久しぶりだな。」
数年ぶりに再会した真奈美は、変わらない快活な笑顔を浮かべていた。だが、その瞳には記者として多くの修羅場をくぐり抜けた覚悟が宿っていた。
「涼、どうしたの？ こんな時間に。」
「少し…見せたいものがあるんだ。」
涼は北条のノートをテーブルに置いた。真奈美がそれを手に取り、ページをめくると、その表情が次第に険しくなっていく。
「これ、どこで手に入れたの？」
「北条先生の遺品だ。彼が何を考え、どこまで知っていたのか、それを知りたい。」
真奈美はしばらく黙り込んだ後、真剣な表情で涼に向き直った。
「涼、このノートは危険よ。もしこれが表に出れば、いくつもの企業や政治家が影響を受ける。場合によっては、君自身も危険に晒される。」
「でも、真実を知りたいんだ。北条先生が何を背負っていたのか、そして…なぜ彼が殺されたのかを。」
その夜、自宅に戻った涼は、郵便受けにまたしても灰色の封筒が入っているのを見つけた。最初の手紙と同じく、差出人は不明で、封筒には「浅間涼様」とだけ記されている。
彼は心臓が高鳴るのを感じながら封を開けた。中には、あの均一な文字が整然と並んでいた。
「浅間涼様、貴殿の行動は灰色の権座に記録されている。 選択を誤れば、貴殿もまた裁きの対象となる。 真実を追うか、それとも沈黙を選ぶか。 道は常に二つに分かれている。」
手紙を持つ涼の手が震えた。自分がこの謎に関わるべきではないと本能的に感じる一方で、北条の死の真相を追求したいという思いが、彼を突き動かしていた。
「灰色の権座…。そして裁き…。」
涼は決意した。この謎を解き明かすため、自らの信念を貫く
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