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ロルカの晩年の詩に ~『2つのカシーダ』について

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フェデリコ・ガルシア・ロルカ(Federico García Lorca, 1898-1936)はスペインの古都グラナダに生まれた詩人です。38歳という短い生涯の間に詩と戯曲のジャンルで歴史に残る傑作を生み出した夭逝の天才芸術家です。詩作に優れた人物の作品はいつの時代も音楽家、作曲家のインスピレーションです。2021年4月にロルカの詩に基づく音楽(声楽曲に限らず)を集めたコンサートがスペイン大使館で開催されました。企画者で作曲家の小内將人さんからお声がけいただき、私も新曲を提供することになりました。ロルカの晩年の詩に基づく音楽を作曲してほしいという依頼でした。

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(演奏会プログラム冊子)

ロルカの詩には本当にたくさんの優れた作曲家が音楽を付けており、私が聴いてきた音楽、勉強した音楽でも様々なロルカの言葉に出会ってきました。とりわけイタリアのルイジ・ノーノ(Luigi Nono, 1924-1990)がロルカに向かい合った音楽は、若かった私に強いインパクトを残したことを覚えています。私にとってロルカは音楽から興味を持った詩人なので、作曲の際にそういった作曲家たちの影が見え隠れするのではないかと危惧もしましたが、全くの杞憂でした。

音楽家でもあったロルカの言葉は、音楽に溢れていました。音楽が聞こえるとは、音を表現した言葉や音を伴う言葉が多いことと、言葉が持つ語感すなわち韻の面白さ、音の長短、母音と子音の組み合わせの妙など、物理的な音感覚の両面において豊かだったという意味です。久しぶりに変に計算することなく、インスピレーションの赴くままに筆を走らせて作曲してみようと感じました。

特に私が選んだのはロルカ最晩年の『タマリット詩集』(Diván del Tamarit)から「水に傷つけられた子どものカシーダ」(Casida del herido por el agua)と「得ることのできない手のカシーダ」(Casida de la mano imposible)です。『タマリット詩集』は全21篇の詩からなっており、12のガセーラと9つのカシーダから構成されています。ガセーラは12篇中6篇だけが生前に発表されたのに対し、カシーダは9篇中7篇が発表されました。個人的な恋愛のことを詠った内容が多いガセーラと違い、カシーダは社会に対するメッセージ性の強い作品が多いです。

カシーダ(Casida)は元来'Quasida'と書きます。アラブ音楽の詩の形のひとつで、アラブ歌謡の原型となったとも言われるものです。私の作品はソプラノ歌手の工藤あかねさんに演奏をお願いしており、アラブの歌謡法を用いたものではありませんが、伸びた声が細かくこぶしのように震える様子などを旋律に盛り込んでいくことを意識しました。先に述べたようにロルカの詩の音楽性は母音の長短の妙味が歌のように聞こえることにも由来しており、とにかく口に残るメロディーをまず書いてみるスケッチを作りました。

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(メロディーの原型のスケッチ)

このスケッチを清書してみて観察し、音が伸びている箇所に装飾的な動きを書き込み、和音や伴奏型を書き込んでいきました。結果、最初に書いた旋律の原型はほとんど訂正を必要とせず、素朴な和音に乗せることができて納得のいくものが出来ました。


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(メロディーにこぶしの表情や伴奏を書き込んで行く)

以下は完成楽譜の一部です。

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(ここまで第1曲より)

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(ここまで第2曲より。楽譜は全て©Edition Gravis Verlag GmbH, 出版準備中)

全プログラムはなかなかのボリュームで、連日の長時間リハーサルは大変だったと思います。ソプラノの工藤あかねさん、ヴァイオリンの田中李々さん、ヴィブラフォンの會田瑞樹さん、ピアノの中村和枝さんが大変な集中力でとてもバランスの美しい演奏を聴かせてくれました。コロナの影響で演奏会はご招待客のみのイベントとなってしまったことは残念ですが、動画が公開されているので、ご紹介いたします(リンクは私の作品まで頭出ししてあります)。

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