ちゃんと知ってますか? 『高濃度炭酸泉』
『温浴ニュースを切る!』では
サウナを中心として温浴関係のニュースについて鋭く切り込みます。
先日こんなニュースが出てました。
> サウナーの次はアワラー? 「人工炭酸泉」がじわじわ広がる、3つの理由
今回は『炭酸泉』について切り込みます!
【基礎】炭酸泉とは?
炭酸泉とは元々二酸化炭素が溶けている温泉のこと。
二酸化炭素は血管拡張作用があり、皮膚の血管が広がることにより血流が増加し、温められた血液が循環して効率よく体が温まる。
Immersion in CO2-rich water containing NaCl diminishes blood pressure fluctuation in anesthetized rats. Int. J. Biometeorol. 52, 109–116 (2007).
高濃度人工炭酸泉入浴中の皮膚血流量の変化
【国内】炭酸泉で有名な温泉地
1. 長湯温泉(大分県)
日本で最も炭酸濃度が高いと言われる温泉で、元祖高濃度炭酸泉。
体に優しいぬる湯が特徴。
2. 有馬温泉(兵庫県)
日本三古湯の一つである有馬温泉には、珍しい複数の泉質が楽しめる国内屈指の温泉地。中でも特に『銀泉』は炭酸泉であり芯まで体が温まる。
3. 湯谷温泉(愛知県)
清流宇連川沿いに位置する湯谷温泉は、炭酸ガスを多く含んだ天然の湯で知られる。
【海外】炭酸泉で有名な温泉地
1. カルロヴィ・ヴァリ(チェコ)
ボヘミア地方の温泉地で、飲用の温泉としても利用される。12もの源泉があり、源泉番号1番のヴジードロ(Vridro)は炭酸を多く含む温泉として有名。ラーズニェ(Lazneiii)と呼ばれる病院のような佇まいの公衆浴場があり、天然の炭酸泉が楽しめる。
2. バート・ナウハイム(ドイツ)
実は世界有数の炭酸泉大国であるドイツ。
その中でも有名なのがバート・ナウハイム。
ドイツのヘッセン州にあるこの温泉地は、炭酸泉を中心とした療養施設があり、心血管系の治療に利用されている。温泉施設は歴史的建造物としても有名。
3. サトゥルニア(イタリア)
トスカーナ地方にあるサトゥルニア温泉は、『絶景すぎる秘湯』としても有名。自然の中で楽しめる炭酸泉が特徴で、棚田のような石灰棚に温泉水が湧き出る。
【知識】高濃度人工炭酸泉とは?
日本の大部分の温浴施設にあるのは二酸化炭素ボンベから沸かしたお湯に溶かして人工的に炭酸泉にするもの。
『高濃度炭酸泉で体の芯までぽっかぽか!』
なんてキャッチフレーズ見たことないだろうか?
ここで二酸化炭素と飽和水蒸気圧(中学や高校の理科でやったやつ)のおさらい。
・温度が高いと二酸化炭素は溶けづらくなる
一般的に、温度が低いほどガスの溶解度は高くなる。これは、低温では水分子の運動エネルギーが減少しガス分子が水中にとどまりやすくなるため。例えば炭酸飲料が冷たいときに炭酸が強く感じられるのは、温度が低いとCO₂が水中に多く溶け込んでいるから。
逆に、温度が高くなると水分子の運動が活発になり、溶け込んでいるガス分子が水から逃げ出しやすくなる。そのため、CO₂の溶解度は低くなる。温かい炭酸飲料があまり炭酸を感じないのは、温度上昇によりCO₂が抜けてしまうから。
・圧力が高いと二酸化炭素は溶けやすくなる
圧力が高いほどガス分子は圧縮され、水中に溶け込む量が増える。これはヘンリーの法則に基づいており、「一定温度において、液体中に溶けるガスの量はそのガスの圧力に比例する」。例えば、炭酸飲料を製造する際には、CO₂を高圧で水に溶かし込む。缶やペットボトルを開けると圧力が下がり、CO₂が気泡となって現れる。
逆に圧力が低いと、ガス分子が拡散しやすくなるため、水中に溶ける量が減少する。これは山の高地など、気圧が低い場所で炭酸飲料が抜けやすい理由の一つ。
日本の温泉法では250 ppm以上の濃度のものを炭酸泉と定義され、温浴業界では一般的に1000 ppm以上の濃度のものを高濃度炭酸泉と呼んでいるようだ。
1気圧下で40℃のお湯に溶ける二酸化炭素の濃度はヘンリーの法則によると
40度におけるCO₂のヘンリー定数は約0.033 M/atm(mol/L·atm)なので
C = 0.033 mol/L
これをgに直すと
0.033 mol/L x 44 g/mol = 1.452 g/L
つまり理論上では最大で、1気圧中では40℃のお湯に二酸化炭素は 1,452ppm 溶けることができる。
1000 ppm溶かすのは非常に大変なのが分かる。
つまり人工高濃度炭酸泉とは二酸化炭素をとんでもない量ぶち込み、中空糸などの技術を用いて効率よくお湯に二酸化炭素を溶かすシステムによって生み出されているものである。
【問題提起】リスクを避け賢く使おう炭酸泉
温浴施設で皮膚の表面にぶくぶく泡が付いて、
めっちゃ炭酸が入ってる!!最高!!
上述の通り、高濃度炭酸泉とは圧力をかけて二酸化炭素をお湯に溶かして、最終的に1000 ppmを超える二酸化炭素濃度のお湯にしたもの。
浴槽に出て来て、通常の圧力になり二酸化炭素が空気中に抜けるときに、大きな泡となり見えるような大きさの気泡になる。
結果的に利用者は『すごい泡!』みたいな満足感が得られる。
温浴施設側からすれば『こんなに泡が出てすごい効果がある!』みたいな感想を抱かせてユーザーの満足感を上げる効果がある。
めっちゃ良いじゃん!と思うかもしれないが忘れてはいけないのは
二酸化炭素は空気よりも重いため水面付近に溜まること。
お風呂に人が入っている場合には水面付近には顔がある。
つまり換気の悪い場所にある高濃度炭酸泉は酸欠(二酸化炭素中毒)になる可能性がある。体内の二酸化炭素濃度が高まると代わりに酸素が減るので、細胞へ酸素を供給するため血液を多く送り出す必要があるため心拍数が上がり心臓への負担がかかる。そんなに熱くないのに心臓がバクバクしていたら危険信号。
失神したら溺水のリスクもあり危険。
【裏話】なんで高濃度炭酸泉が増えているのか?
それは二酸化炭素ボンベのサブスクビジネスだから。
サブスクリプションなので使用した量に応じて料金が増減する。つまり二酸化炭素ボンベを供給する会社は温浴施設が二酸化炭素を使えば使うほど儲かる。
そして上述の通り、利用者も炭酸泉のことをよく知らないので、過剰に使用された二酸化炭素による炭酸泉を『良い炭酸泉』として認識して、満足度の上昇につながるので施設側もボンベ業者もwin-winというわけ。
炭酸泉を供給する会社も過剰な二酸化炭素使用は危険とわかっているので溶存率(使った二酸化炭素の中で実際に溶けた二酸化炭素の割合)を上げるべく努力しているが、水面付近で二酸化炭素濃度が高いことには変わりない。
【賢者のルール】高濃度炭酸泉に入る・・・・
高濃度炭酸泉に入る前に換気状況を確認すべし!
自分自身の体調・コンディションを把握するのは当然ですが、施設の環境もきちんと見定めて安全に賢く温浴施設を楽しみましょう!
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