村一番の働き娘フェルミーニャ【短編】
フェルミーニャ、セロハンテープ取ってよ。夢の女神が耳元で囁いた。
『……夢、か』
私は『夢でした』と枕元に置いていた鮫のフィギュアに語りかけた。意識が徐々に戻ってきたからだ。
徐々に朝食の準備を進める意志を固めていると、実際の朝食としての目玉焼きの白身もいずれ固まってた?
したがって『人間もまた、セロハンのような存在なのだな』と観念した。
『それは仕方ない』とフェルミーニャは思った。
物語のはじまりは、かくも村一番なのかと。
『実際村一番だと思いますよ。それは実績にもあらわれています』
時代錯誤のPCのデータをいじりながら、お役所面をした抜け目なき自称死神のタナトスがため息まじりに言った。
確かに窓辺から見える彼女フェルミーニャは棒にバケツが2個ついたヤツで水を運んでいた。
『確かにありがたいな』
『実際一番だと思う』
看板を見上げると、そこは古びたプラスチック洗濯バサミ修繕工場だった。はたしてどちらが錯誤なのやら。
『フェルミーニャ、お昼にしましょう』
『いえ、今日は王様との謁見がありますので』
……
『ああいうとこだよなぁ』
『実際事実だしな』
『あら、お言葉ですが皮肉をおっしゃれるのですね』
『はは』
和やかな空気だった。
【TV画面】
「今日はフェルミーニャさんにお会いしたそうですが」
🎤そうですね
「明日もお会いしたいですか?」
🎤キミは風が吹いたら井戸に水がなみなみ満たされるとでも?
「大変失礼いたしました」
🎤イニシエの慣習をひけらかすのも気が引けるがな
視聴者『一理あるが、まぁ』
『フェルミーニャ』
『はい』
『村一番の吟遊機関のボクと結婚しよう(しようか)』
『ハノイ』
旧友と膝を温め合っていると、ふと懐かしくなった。憶えているだろうか。
『お前結局ミーニャちゃんとどうなったん笑』
『おい笑 あっ店員さんすみませ〜ん、野暮の唐揚げ特盛……あっ、トッピングはマヨネーズで』
帰り道の家の砂利を踏む音が、その日は妙に大きく感じた。機械的な往復運動に僅かな差異を感じ取れたのは、ひとえに追懐の賜物だろうか。そんなセロハンの裏を舐めとるような行為に、罪科としての涙が暗い鏡に伝った。
『お前まだ吟遊機関のクセの思考が抜けてないんか笑』
フェルミーニャ、フェルミーニャ。同窓会で呼ばれるのは4番目。
あさひ
ゆうひ
ゆめ