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【短編】デストラクション・ガール

『鏡よ鏡よカガミさん。私に憎悪を抱く者を全員ブチ殺してくれ』

by ユリこと私

翌日は快晴で、身の回りの人は皆生きていた。
昨夜はよからぬ願いを持ってしまったと自省しつつ、電動歯ブラシの底の部分で鏡を破壊した。

方向性が間違えてると思い、通学路の学生(同級生も含む)全員のケツに蹴りを入れた。そもそも鏡に殺人能力などないにも関わらず。

『先生、なぜ人を殺してはならないのですか❓』

「定番の質問をいただきました。牽制としての返答ですが、いかなる愚問であろうと安易な答えなどなく、一生考え続けるのが人間の――』

私は用意してた反省文を突き出しつつ先生にビンタをし、先日面接に受かったバイト先に足早でなるはや。
初日の説明を受けながら早弁をし、嫌いなミニトマトを店長に差し出し辞表も提出。
通りすがりのお婆さんに『私は何がしたかったんだ』と問うたが、手鏡で白髪のチェックをしていたので見逃した。

悪友のミホが息を切らしながら合流してきた。

「どう? ひと段落した?」

私は絶交覚悟でソレが誤用だと伝えた。振り返り去る彼女の瞳からキラキラとした涙がマンガのように溢れていたが後悔はない。今どきあからさまな誤用を繰り出す輩と交友していたら沽券にかかわる。遠のく背中に『ダイガエ』とポツリ呟く。

考えなしにヒッチハイクをしていると廃品回収業者だったので、家の鏡の破片を回収してほしいと頼んだ。勿論請求先はミホだ。私と絶交したバツに決まってんだろ。

廊下ですれ違った校長に『濃い午前だった』と伝えたら褒めてくれた。イジメ対策の進捗について聞いたが口をつぐんでいたので同級生のゴミクズ野朗こと井ノ原をシメ、弁当を奪い取った。

案の定ミニトマトが入っていたので井ノ原のスマホも強奪し彼の母に通報した。ついでにミホの家に高級寿司を勝手に注文してやった。

教室に戻ると黒板にデカデカと『ユリ死ね』と書かれていたので即座に担任を呼び出し倫理について議論した。腹いせに校長の高級車の絶妙にわかりづらい部分にミニトマトを押し詰めた。イジメ解決に向けて真剣に動かんからだバカめ。

『ミホ、仲直りしよう』

その手は払いのけられたので、再び担任を呼んだ。人と仲良くしようとする意志を無下にするのはイジメでないかと。彼はそれは個人の自由だと濁したので逆に溜飲を上げた。

前述の黒板の件は井ノ原の仕業だと勝手に断定し、弁明やらアリバイを反故にした。ミホが冷たい目で睨んできやがったのでハグをし、『大丈夫だよ(今日のお前の晩御飯は宅配高級寿司が保証されているという意味)』と耳元で囁いた。

慣れた手つきで盗聴器を教室に仕掛けトイレに篭った。どうやら私がいかに異常か話し合っているらしい。私が動けば鏡屋が儲かる。

だが実際に鏡屋のフトコロが潤い、高級外車を買う為にディーラーの自動ドアーをくぐる時の顔を想像したらムカついたのでやめた。
代わりに雑貨屋で風船をしこたま買い込み、深夜の教室にありったけを詰め込んだ。

翌日登校するとゴム特有のギチギチ音が教室から漏れ出て笑った。全校集会を目論んだ校長だったが、私の策略により体育館も既にギチギチだ。

隣で狼狽する井ノ原に『大丈夫だよ』と安心を与え、素早く廃品回収を手配した。

今日もはちゃめちゃな一日になりそうだ。

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