第61回:規制を変えるためのツール‐国家戦略特区を徹底解説‐
1)規制とは何か
政府の会議のうち、規制改革に重点を置いているものとして、規制改革推進会議や国家戦略特区諮問会議などがあります。これらは小泉政権下での経済財政諮問会議の流れと同様に、民間議員が議論を主導し、政治主導で政策を強力に進める場として効果的に活用されてきました。
規制改革といっても、人によってはいろいろな定義がありそうですが、一般的には規制とは
「国や地方公共団体が企業・国民活動に対して特定の政策目的のために関与・介入するものを指す。それは、許認可等の手段による規制を典型とし、その他にも、許認可に付随してあるいは、それと別個に行われる規制的な行政指導や価格支持等の制度的関与など」(臨時行政改革推進審議会「公的規制の緩和等に関する答申」(昭和63年12月1日) とされています。
法学部を卒業した方なら記憶があるかもしれませんが、かつて銭湯営業の許可基準としてほかの銭湯との間に一定の距離があることを条例で求めることは憲法違反であるとして裁判で争われたことがあります。
参考:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54731
これは今もいくつかの自治体の条例にあるものですが、まさに規制の一例といえます。
「好きなところで銭湯を経営する」という企業活動を「近くに銭湯がある場合には営業を許可しない」という規制により、一定程度制限しているのです。
このような規制が存在する理由は、みんなの健康や安全のためだったり、過度な競争を防ぐためだったりしますが、このような規制が時代遅れになることもあります。このような規制をアップデートするための組織として設置されているのが、規制改革推進会議や国家戦略特区諮問会議なのです。
今回は国家戦略特区諮問会議で議論される国家戦略特区に注目し、制度背景や、その活用のコツについて解説していきます。
(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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2)国家戦略特区創設の背景
国家戦略特区は2013年の臨時国会で成立した国家戦略特別区域法が根拠です。
実は、国家戦略特区が始まる以前から構造改革特区や総合特区など類似の仕組みはありました。でも規制改革を進める上で課題があったことが指摘されています。
総合特区については、2013年4月17日の産業競争力会議で竹中平蔵が提出した資料で、提案された特例措置のほとんどが規制緩和につながっていない(119件の提案のうち、規制緩和に向けた合意があったのは5件)と指摘され、規制の特例措置が提案されても、実際の規制緩和につながる例が少ないことが問題視されました。
参考:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai6/siryou14.pdf
また、構造改革特区・総合特区制度のいずれについても、自治体の提案を国が認める仕組みであり、総理主導の規制緩和ではないことや民間有識者が規制改革の議論に参加する仕組みが弱かった(※)ことが規制改革にうまくつながらなかった要因として指摘されています。
このような欠点を補い、規制改革を強力に進めるためのツールとして期待されたのが国家戦略特区です。
3)国家戦略特区の特徴‐民間議員の積極的な関与‐
これまでの制度の弱点を克服しようと生まれた国家戦略特区のポイントは、民間議員の関与が強いことです。
総合特区にも構造改革特区に共通するのは、民間事業者や自治体が特例措置の提案をした後、その提案については自治体/内閣官房・内閣府と制度を担当する省庁との間で直接協議を行う仕組みとであることです。
官邸主導を強化するために作られた内閣官房や内閣府が調整に関与しているものの、省庁間、または自治体と国とで直接調整する仕組みだと、制度を持っている省庁を説得するためのパワーが足りません。
規制を持っている官庁に積極的に制度変更を行うよう促すためには、官邸に近い民間議員が議論をリードし、官邸が最終判断を下す経済財政諮問会議や成長戦略関係の会議と同じような仕組みが必要です。
この点、国家戦略特区では民間有識者が初期の段階から主導的な役割を発揮します。
国家戦略特区は、特例措置の実施に至るまでに
1.特区ワーキンググループによる提案者や関係省庁からのヒアリング→2.特区ワーキンググループによる調査・検討(民間議員主導の議論)→3.特区諮問会議の審議(総理+中心的な閣僚+民間有識者)
の順に進んでいきます。
国家戦略特区では、1.の提案者、関係省庁のヒアリングから民間議員の関与が始まります。
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