現場の声を政策につなげるために
先日、女性支援団体の勉強会で講演をしてきました。
女性支援にずっと力を入れている木村やよい議員主催のNPOなどの民間団体の勉強会でご依頼いただきました。
木村やよいさんは、女性支援を中心に、支援現場の声を政策につなぐ活動をしている方で、僕もよく色んなお話をさせていただく仲間のような存在です。木村さんから、現場の声を政策につなげるために、民間団体向けにどういうことをすればよいかというお話をしてほしいとご依頼をいただきました。
1.政策を作る現場と支援現場が遠い悩み
僕自身は、若い頃に霞が関で政策を考えながら、政策の対象者(お客さんのようなものです)があまりに遠いという悩みを抱えていました。
例えば、霞が関では法律の条文(案)を作るような仕事を係長くらいの頃にしているわけですが、自分の書いている条文がこういう風に変わると、現場の仕事がどのように変わっていくのか、それによって最終的に届けたいお客さん、つまり福祉のような分野でいうと困っている人の生活がどうよくなっていくのかということが、よくイメージできなかったのです。
役所に入ってから、支援現場で働く機会もないですし、対話の機会もほとんどない中で条文を作っていたのです。そもそも、困っている人が頑張れる社会、安心できる社会を作りたいというようなことを思って厚労省に入りましたが、学生時代にそれほど周りに困っている人がいた環境でもありませんでした。だから、支援現場のこともお客さんのこともなかなかイメージができませんでした。
2.霞が関から現場を近づける
法律を立案する仕事を役割としてやっているので、実際に法律案が閣議決定して国会に提出されて、法案審議の対応もして、法律として成立すれば、組織としてのプロジェクトは前に進んでいくので、組織からは評価されますが、自分で自分の仕事をちゃんと理解できないことが気持ち悪いなあと思っていました。
そこで、(女性支援に限りませんが)自分の仕事の最前線の現場に、平日の夜や休日に出かけて行くことをし始めて、だんだん自分の霞が関での政策を作るという仕事と現場や人の生活の関係を理解していったのです。
そういう経験を積み重ねていく中で、仕事がすごく楽しくなったし、政策判断も自信を持てるようになり、決定権を持っている幹部や政治家の人にも自信を持って説明できるようになっていきました。
そういう過程で、色んな民間団体に仲間が増えていきましたし、相談を受けることも増えてきました。
だんだん、自分だけ勉強させてもらうのはもったいないし、相談や頼まれごとが増えてくると、一人でさばききれなくなってきたこともあり、後輩たちをよく現場に連れて行ったり、現場の人に厚労省に来てもらってお話をしてもらったりという活動を続けていました。(現場亜を見たい官僚はたくさんいますが、忙しすぎてなかなか時間を捻出できないのが悩みでしたが)
3.現場から政策領域を近づける
今は、自由な立場になったので、より民間団体の側に立って、支援対象者や団体自身の抱える課題を解決するために、どうやって政策に働きかけていったらよいかということを一緒に考えている活動をしています。
霞が関で働いている頃は、仲間の民間団体がたくさんあるといっても、それなりに先方も遠慮がありますし、自分自身もたくさん時間を使うことができませんでした。特に、平日の日中はほとんど使えません。
だから、かなり自力で政策への働きかけを考えることができたり、役所や政治家にアプローチできるような力のある団体の人たちが、僕に相談に来ることが多かったのですが、今はその前段階で民間団体とかかわることができるようになってきました。
そうすると、民間団体から見ても政策領域がとても遠いことが分かってきました。そもそも抱えている課題を政策で解決できることに気づいていないケースもありますし、気づいたとしても、いつ、誰に、どうやって働きかけたらよいか戦略を立てるのも難しいですし、そもそも政策を変えられるものだという実感を持っている人も少ないです。
長くなるので、詳細はどこかで書きたいと思いますが、昔に比べて霞が関には政策の種となるような情報が本当に届きにくくなっています。
4.理想の政策をつくるためのフロー
本来、政策をつくるための情報というのは、ビジネスだろうと困っている人の支援だろうと、お客さんに一番近いところにあります。つまり、企業や民間団体に一番ネタがあるのです。
その情報を法律案なり予算案なりといった政策(解決策)という形にするのが、官僚の本来の専門性です。そして、その解決策を実現するための意見調整・意思決定が本来の政治の役割です。ただ、よいか悪いか別にして日本ではこの意見調整・意思決定も官僚が政治家と協力して行っています。
だから、領域を問わず、本当に国民にとどく理想の政策を作るためには以下のようなフローを再構築していく必要があります。
(理想のフロー図)
この政策を作るための理想のフロー図は、政治家にしても官僚にしても、企業にしても、民間団体にしても、一人(一つの組織)ではできません。自ずと、別の特技を持つ別のセクターの人で思いを同じくする人とつながっていかないとできません。
5.民間団体への期待
ビジネスをやっている企業にしても困っている人の支援をしている民間団体にしても、一番情報や技術などを持っているセクターなので、実はこの政策を作るフローの中でとても大事な役割を担っています。
なので、民間団体の方々への期待やお願いとして、こんなことをお話させていただきました。
① 当事者が救われる社会を作るためには、当事者を知り、広く伝える人が必要。
当事者の支援が当然活動の中心になりますが、活動の中にたくさんの情報の宝があるので、それを分かりやすくまとめて伝える人が起点になってほしいのです。
② 企業もメディアも議員も官僚も支援リソースを増やしてくれるという意味では、ある種の顧客ととらえる。
思いの強い支援者ほど、当事者との時間をたくさん使いたいと思いますが、当事者の方の環境をよくするためには、支援リソースを増やすことや制度を変えていくことも必要です。特に、福祉のような分野では、当事者と費用を負担する人が異なることが多いので、頭の中のいくらかの割合は当事者でない人たちにも向けて欲しいのです。寄附でも、企業や民間団体の助成金でも、行政の補助金でも、いくらかお金を出す人のニーズを考えるとより支援を増やすことができます。
③ 当事者の実態と必要な支援をまとめる。
当事者の実態や解決策を現場の支援者の方は感覚的に分かっている場合が多いかもしれませんが、普段当事者と接していない人たちに理解してもらうためには、調査や情報の整理、解決策の中身を考えることも大事です。これは、一つの民間団体だけではなかなか難しいかもしれないので上手に得意な人の手を借りて欲しいです。
自分自身のノウハウもここで使ってもらいたいと思いますし、今やNPOなどには国家公務員の兼業もできます。
④ ネットワークをつくり、政策領域の人(議員や官僚)、メディア、一般の人に伝えていく。
当事者の実態や解決策(政策の答え)を分かっていても、権限のある人の意思決定がなければ実現しないので、応援してくれる人を色んなセクターに増やしていってほしいです。議員にも官僚にもメディアにも必ず応援者はいます。
引き続き、こういう民間団体の取組を応援していきたいと思います。また、議員や官僚といった政策領域の人が現場に行くお手伝いを今もしていますが、そういう人たちが本当の情報にアクセスできる機会も作っていきたいと思います。
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