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第64回:法律案の先取り、内容に影響を与える手法‐フリーランス法の事例など‐


1.はじめに

令和5年度の当初予算案が2月28日に衆議院本会議で可決されました。憲法で衆議院の優越原則があるため、参議院で議論の結果にかかわらず、3月中には予算が成立します。

参議院での議論を残してはいるものの、国会での主なテーマは新しく作られる法律案の議論に移行します。

法律とは、政策ツールのうちの規制に該当します。規制の特徴は、「強制的に国民の行動を変えるツール」であるということです。

一例として、景品表示法について考えてみましょう。

この法律は、商品について、実際よりもはるかに優れている、事実に反しているような広告やパッケージを作ることを禁止するものです。

この法律がない場合、目の前の商品が本当に欲しいものか見分けるのが難しくなります。例えば、本当は効果がないのに痩せるといってサプリメントの広告をした場合、ダイエットをしたい人が効果がないサプリメントを買ってしまうことになります。

販売者側はたいして質の高くない、全く意味のない商品を、良い値段で販売でき、利益を得られるので良いでしょうが、一般市民としては、本来あると思っていた品質がない商品が買わされることになります。販売側のほうが消費者よりも知識を持っているので、消費者は本来自分が買うべき商品を判断できなくなります。

そのようなことにならないように景品表示法には、罰則が設けられています。実証されていない効果をうたった広告をした場合、商品売り上げの一部を課徴金として納付する規定が設けられています。

このように、知識がない人でも、だまされて質の低い商品を買わないよう、国民や企業の行動を強制的に制限するのが、景品表示法です。

このように、法律というルールを変えることで、人の生活やビジネス環境は大きく変わるため、より良い政策を提案したいと考える人たちは、法律の案が作られ、そして国会で可決承認されるまでのプロセスを知っておかなければいけないのです。

この記事では法案提出のきっかけ、政府内での議論、政府内で法案が作られてから、与党の部会で承認されるまでの一連の流れ、そして法律案の中身にどんな人たちが影響を与えているかについて説明します。

2.今回の国会で提出される法案の一例

すでに日本にはたくさんの法律が存在していますが、時代の変化により、新しい規制が必要になることがあります。例年通常国会では60本近い法案が成立します。今回の国会でも多くの法案が議論される予定です。

例えばフリーランス保護法案は、企業などに雇われずに働くいわゆるフリーランスが日本で450万人強となり増加傾向にあるなか、報酬の支払いの遅れや一方的な仕事内容の変更といったトラブルを経験する人が増えていることへの対応として作られる法律です。

‐フリーランスへの報酬額を書面などで明示しなければならないこと
‐60日以内に報酬を支払わなければいけないこと
‐フリーランスに責任がないのに、(成果物の)受け取りを拒否したり、報酬を減額したり、返品などを行わないこと

を業務委託を行う事業者の義務とするルールを設定します。
※正式には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案
参考:https://www.cas.go.jp/jp/houan/230224/siryou1.pdf

このフリーランス保護法案を使って、政策を先取りする方法をお伝えします。

3.成立前の法案内容を知るには

基本的に法案が成立するまでには、①役所で法案のたたき台をつくり、②閣議決定され国会に提出され③国会で審議・可決し成立する、というプロセスをたどります。

衆議院、参議院ともに与党が過半数を占めている現在の状況下では、与党は内閣提出法案に賛成するので、国会の場で内容に修正が入ることはほとんどありません。政府案のまま成立することが9割以上と考えてもらって大丈夫です。

つまり、②の閣議決定され国会に提出された時点の政府案を見ておけば、今後の政策の方向性を予測することができます。
先ほどご紹介したフリーランス法案の例を用いて説明します。この法案の担当省庁である内閣官房ののトップページを開くと、「国会提出法案」と書かれたタブがあります。法律の概要や、法律案を確認することが可能です。
参考:https://www.cas.go.jp/jp/houan/index.html

資料の中には法律に不慣れな外部の人でも理解できるようにパワーポイントで作成された資料が添付されていることもあります。不慣れな方はこちらの資料を読むことをお勧めします。
参考:https://www.cas.go.jp/jp/houan/230224/siryou1.pdf

法律が国会で成立し、メディアで報道される前に、法案の内容を把握する方法をお伝えしました。さらにその前、政府の政策が法律案の形になる前の段階で政策の行く末を予測するための方法もあるのですが、その方法についてはこの後説明します。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)
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