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第84回:概算要求を企業の目線から分析する(厚生労働省・労働分野編)

前回に引き続き、今回も概算要求を企業の目線で分析していきたいと思います。今回は厚労省の労働分野の予算です。

なぜ、企業やビジネスパーソンが概算要求を把握しないといけないのかについては、前々回の記事を見ていただければと思います。

それでは、見ていきましょう。


1)労働分野はHP運用などの広報予算が盛りだくさん‐より分かりやすい見せ方ができないか‐

近年労働人口が減少していく中で人材確保や生産性向上が課題となっていますが、そのためにも働き方改革が重要です。厚労省では、累次の制度改正や予算などにより働き方改革に関する政策を強化していますが、最終的に働き方を決めるのは、雇い主である企業や労働者です。

このため、企業や労働者に向けて、制度や支援策、企業での導入事例や働き方などの周知啓発を目的とするための広報予算が目立ちます。

最近ではデータをわかりやすく可視化するようなダッシュボードを役所のHPで採用することも増えてきました。例えばデジタル庁ではマイナンバーカードの普及率を図表を使って可視化する取り組みを行っています。

また、対象とする国民に伝わりやすくするために、HPで使用する文言に工夫をする取り組みもあります。年金の広報では、「将来年金がいくらもらえるか不安」という、国民の声にこたえて将来受け取ることのできる年金額を試算できるシュミレーターを開発しましたが、同時に「年金の仕組みは複雑で理解できない」という声にも対応し、「ねんきん定期便があれば、パッと試算できる」とタイトルに記載するなどの工夫を行っています。

このような取り組みは、政府全体の一部でしかありません。ノウハウのある民間企業の皆さんが、例えば周知啓発のためのHPのデザインや運用について、改善できる点がないか検討し、よい提案をすることができれば、国の政策ももっと伝わりやすくなるでしょう。

2)無期転換ルール等の円滑な運用に係る取組

無期転換ルールとは労働契約法の改正により、同じ企業との間で、1年、6カ月・・・などと期間の定めのある労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の意思表示によって機関の定めのない労働契約に転換されるルールです。

法令としてはこのような仕組みが作られていますが、内容を知っている人は半数に満たないというデータがあります。当事者である労働者の認識を深めることを目的としたHPの運用、インターネット広告などの作成のための費用が計上されています。概算要求額 29百万円(前年度32百万円)です。
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24syokan/dl/01-02.pdf(p79)

現在の無期転換ルールのポータルサイトはこちらです(↓)。
https://muki.mhlw.go.jp/?yclid=YSS.EAIaIQobChMIjPeQ06y6gQMVUsJMAh2oRw39EAAYASAAEgLryfD_BwE

制度や予算など政策はつくって終わりではありません。
よいルールをつくっても、それが知られていなければ守られないので、社会は変わらず人の生活も向上していきません。
つくった政策が国民に届いて初めて意味があるのです。

昔から、大手メディアや専門メディア、業界団体や労働組合などの中間組織を通じた周知、自治体や労働局・ハローワーク・労基署などの住民に近い第一線の行政機関を通じた周知には取り組んでいますが、生活や価値観の多様化もあり、既存の広報ルートだけでは、政策の対象者に情報が届きにくくなっています。

「政策が国民に届かない問題」というのは、霞が関共通の大きな課題ですが、労働政策は特に対象者が広い分野です。人を雇う企業すべて、雇用されて働く人すべてがお客さんになります。したがって、厚労省も広報室に民間の広報のプロの方を雇ったり、広報に力を入れています。

ただ、厚労省も広報を専門にやっている機関ではありませんので、やはり民間の力を借りる必要があるのです。これが、広報予算が増えている背景です。

それでは、厚労省がどのように広報に力を入れていこうとしているのか、さらに具体的に見ていきましょう。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)
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