第81回:税制改正の意思決定プロセスと実現のコツ
1.税はインセンティブにもディスインセンティブにもなる
国の政策を実現するためのツールとしてよく使われる手段が予算です。ある目的を実現するために、人々に特定の行動を促すような資金的援助を与えて、望ましい行動をとってもらうというのがその本質です。
最近ではマイナンバーカードの取得率向上のため、マイナンバーカードの申請をした人にマイナポイントを付与する政策がありました。これは金銭的なインセンティブを与えることで、人々にマイナンバーカードの取得をさせることを目指したものです。
この予算という政策ツールを使うためには先立つものが必要です。あるべき社会を実現するために必要な予算を考え、その予算を実現するために国民から集めるものが税金です。
緊急時の対応などのために国債が発行されることはありますが、基本的には予算の増額には税金の増額がセットです。また、小さな予算事業の創設であれば他の予算を削ることで財源をねん出することも可能ですが、大きな予算を確保するためには裏付けとなる新たな財源が必要になります。したがって、大掛かりな政策変更の際には、税金についても必ず議論されます。
最近では、昨今の緊迫した国際情勢に対応するための防衛政策実現のため、防衛力整備計画において、防衛関係費を2027年時点で8.9兆円として、2022年度比で3.7兆円増額させることが示されました。
※https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/guideline/plan/plan_13.html
それ以降、増加する防衛費の裏づけとなる財源をどうするかの議論が活発に行われています。ニュースで断片的に報道されるものの、どの税項目からいつ、どのように、どの程度徴収するのか、といったことについては、どのようなプロセスで誰が決定しようとしているのかは、なかなか見えにくいと思います。今回は、税制改正のプロセスについて、網羅的に解説していきます。
2.税制改正の大まかな流れ(行政サイドの動き)
税制改正の行政側の流れは大まかに以下の通りです。
4・5月 各省庁が次年(2022年の4・5月であれば2023年)の税制の内容を考え始める
8月末 各省庁が次年の税制の内容を提案する「税制改正要望」を財務省・総務省に提出
9月~12月 財務省・総務省が各省の提案をヒアリングして、新たな税制とすべきか検討
12月下旬 税制改正大綱の閣議決定
1月 租税特別措置法案の国会提出
2月~3月 国会での審議
3月末 租税特別措置法成立
まず、4・5月に、各部局が次年の税制改正要望の内容を考え始めます。通常この時期に業界団体などからヒアリングを行っています。この検討はまず、各局でおこなわれます。
そして、5・6月に各部局と各局の税制改正要望を取りまとめる役割を担う部局との間で大まかな税制改正要望の検討が行われます。財務省や総務省にその税制改正の必要性を認めてもらうためには説得力のある理由が必要です。
税制改正の手続きに詳しい税制の取りまとめ部局の意見を踏まえながら、各部局が税制改正の内容とそれが必要な理由を固めるのがこの頃です。
さらに7・8月には財務省・総務省事前ヒアリングが行われます。税制改正要望を出す省庁と財務省・総務省の間で想定している要望内容の確認を行うものです。
8月末には各省庁が税制改正要望を財務省・総務省に提出します。各省庁は、それぞれの省内での調整を8月末までに終え、財務省・総務省に対して税制改正要望を行います。税制改正要望の前には8月下旬に与党の部会の場で、税制改正要望の内容に了解をもらうことになります。
8月末には、各省庁が税制改正の内容を公開します。厚労省の場合には、新規要望の場合には「新」これまでもあった要望を拡充する要望の場合には「拡」、延長を希望する要望には「延」と記載しているので、昨年度と比べて何を変えたいと思っているのかがわかるようになっています。
※https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000981432.pdf
9月以降は財務省・総務省と要望を出した各省庁の交渉、自民党内の議論などが活発化します。
9月以降、財務省・総務省との交渉がなされ、何度かのヒアリングを経て、11・12月頃に行われる与党税制調査会(税制改正の方向性を決定づける自民党内の組織)での審議の前までに財務省・総務省が暫定的な査定内容を固めます。
12月には、後ほど触れる与党税制改正大綱を踏まえ、項目については与党の大綱とそろえた形で政府税制改正大綱が閣議決定されます。
1月以降、閣議決定された政府税制改正大綱の内容を踏まえた租税特別措置法改正法案が国会で議論され、3月末までに可決成立します。
以上が、税制改正の大まかな流れですが、意思決定に向けて、政策の裏側では誰がどのように動いているのか、詳しく見ていきましょう。
(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)
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