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「体重」と「収入」は擬似相関か?

 今週の1年生向けの授業では,擬似相関について理解してもらうため,次のようなお題を出してグループディスカッションをしてもらった。

 データ上は「体重」と「収入」には正の関係がある。つまり,体重の軽い人は相対的に収入が低く,反対に体重の重い人は収入が高い。この関係についてみなさんはどう考えますか?

 「体重」と「収入」の関係は擬似相関の典型例としてよく用いられる。実際は第3の要因として「年齢」があり,「年齢」が「体重」と「収入」にそれぞれ影響を与えているだけであって,実際には「体重」と「収入」の間には関係はないのである。

 ただ,である。これで「あーなるほど!」となるだろうか。

 グループで出された意見で結構多かったのが,「収入が高いと食費にかけるお金が多くなりそれだけ贅沢なものをたくさん食べることで体重が増える」という論理である。これはこれで納得できる。

 さらに面白かったのは,あるグループは,「収入が低い人は,収入という点で自己アピールができないため,できるだけ素敵な容姿になろうとしてダイエットに励む」という論理を発表していた。私自身考えていなかった論理で「ほほー」となった。

 「体重」と「収入」が擬似相関であるとして片付けるのと,グループで出された意見との違いは何なのか。その違いは「体重」と「収入」を結びつける,その間のプロセスを詳細に展開しようとしているかどうかである。

 2つのことがら(今回の例では「体重」と「収入」)の間のプロセスを詳細に展開するような思考法や説明を「メカニズムに基づくアプローチ(mechanism-based approarch)」とか「メカニズムによる説明(explanation by mechanism)」という(以下では,EbMと呼ぶ)。

 EbMのポイントは「X」→「Y」という関係における「→」の部分の論理を詳細に展開する点にある。擬似相関だとして片付けてしまう考え方では,「→」の詳細な論理にそれほど焦点を当てるわけではない。すなわち「→」はブラックボックスのままである。しかし,EbMはそのブラックボックスを開けることに焦点が当てられる。

 さらにこのことは,社会に法則が存在するか,言い換えれば,社会を予測できるかどうか,どうかという問題とも関わってくる(この点については,以前の投稿を参考のこと)。EbMの場合,上記のような「体重」と「収入」の正の相関が働かないような論理も展開可能である。

 例えば,米国では低収入の人は肥満になる傾向にあるといったことを聞いたことがある。低収入の人は自己管理能力が低かったり,安いファーストフードを多く食べる傾向にあるため体重が増加してしまうといったメカニズムが考えられる。

 擬似相関を理解してもらうという授業の意図は達成されたものの,学生たちから出された意見のほうが,社会を理解・説明するという意味においてはより意味のある思考法だなと思った次第。社会科学の面白さもここにあるなと。しかも,EbMによって擬似相関の可能性を避けることもできるし。

 

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