青山泰の裁判リポート 第8回 “性的姿態撮影罪”ってどんな犯罪? 加害者たちの残念な言い訳とは……
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2023年7月13日、「性的姿態撮影等処罰法」が施行された。
身体の性的な部位や下着などを、相手の同意なく撮影したり、盗撮したりする犯罪だ。
撮影だけでなく、盗撮画像の保管や、第三者への提供なども処罰される。
典型的なケースが、公共交通機関、店舗、地下道、エスカレーターや階段などで、ばれないように女性のスカート内を撮影する盗撮行為だ。進学塾やクリニックでも……。
日本の刑法には盗撮罪がなく、これまで各都道府県の迷惑防止条例で対処してきた。
スマートフォンの普及で、盗撮件数が増加し、全国一律での処罰規定が求められ、新設されたのだ。
刑罰は「3年以下の懲役または禁錮、300万円以下の罰金」と厳罰化された。
これまでの迷惑防止条例は、たとえば東京都では、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」。常習の場合でも「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」だった。
「盗撮しても、相手が気づかなければ、
被害者を傷つけることはない」
SNSなどでは、特に階段やエスカレーターでの盗撮について、軽く考えたり、加害者を弁護する発言が散見される。
「盗撮しても、相手が気づかなければ、被害者を傷つけることはない」
「オーバーパンツを履いているので、盗撮しても問題ない」
「むやみに超ミニの女性が多い。普通に下着が見えてる」
「盗撮されたくなかったら、ミニスカートを履かなければいい」
法廷で、口頭では「申しわけありません」と謝罪しながら、反省の気持ちが乏しいと見受けられる被告人もいた。
特に再犯のケースでは、検察官や裁判官が、被告人を厳しく説諭することも多い。
駅のエスカレーターの後ろから
スカートをまくり上げて盗撮。
証言席に座っている被告人は、紺のスーツ姿の派遣社員。
少し肥満体型の中年男性で、婚姻歴はない。
秋葉原駅のホームに向かうエスカレーターで、被害者の女性(32歳)のスカート内に動画撮影機能付き携帯電話を差し入れて、でん部付近を撮影した。
女性の後をついていき、左手でスカートのすそをまくり上げて、右手で撮影するという、何とも大胆な犯行だった。
女性は「盗撮されてたよ」と、通行人に指摘されて初めて気がついたという。騒がれた加害者は、とっさに動画をゴミ箱内に消去した。
これまでも女性トイレに侵入
したり、パンツを盗んだり……
盗撮は1年前から始めたというが、性犯罪歴は長い。
平成26年、女子トイレに侵入して罰金10万円。令和2年、洗濯機からパンツ2枚を盗んで懲役1年執行猶予4年。
その後、軽自動車を購入して、無保険状態でわき見運転をして、事故を起こした。
懲役1年6月執行猶予4年の判決を受けて、執行猶予中に盗撮で逮捕された。
「お酒を飲んで気分が舞い上がっていた。お酒を飲むとタガが外れてしまう」と供述。
男性検察官は、中年男性を鋭く追及する。
――どうしてエスカレーターなんですか?
「被害者にバレないから」
――お酒を飲んで、性欲が増して、どうして盗撮を選ぶんですか?
お酒は関係ないんじゃないですか? 盗撮が好きだからやるんじゃないですか?
「……」
――保釈されてから時間があったのに、病院に行くとか、(犯罪と)向き合うことはなかったんですか?
「……」
――酒じゃないですよ。
性欲発散のために、前回は下着を取ろうとした。
他人の迷惑を顧みずに犯罪を選ぶことが、問題なんじゃないですか?
「甘く考え過ぎ。刑務所に行くことは
ないって思ってない?」
――軽く見過ぎだよね。女性の後をつけてエスカレーターで盗撮。
今回、刑務所に行くことはないと思ってない?
「ばれなきゃいいと思ってました」
――甘く考え過ぎ。執行猶予期間中に2回も犯罪を起こす。刑務所に行くことを覚悟している人間の行動。
「……」
被告人は、何も言わず、下を向いたまま。
検察官は、なおも興奮気味に畳みかける。
――この国の、この社会で生きていくためには、犯罪はしちゃいけない。
本当に分かってますか?
「はい」
――『はい』って言うしかないんだろうけど。心配になりますよ。
また何年かたったら、ここ(法廷)にいるんじゃないかと。
検察官は常習的犯行として、懲役1年2月を求刑した。
「大胆かつ手慣れた犯行。社会内での更生は期待できない。再犯の可能性は高い」と。
判決は、懲役7月の実刑だった。
「女性の脚は芸術美。ひざ裏から
ふくらはぎに興味がある」
高山祐一被告(仮名)は、普段使いと撮影用と、2台の携帯電話を持っていた。
エスカレーターで被害者の2、3段下から、右手を伸ばした状態で携帯を持って撮影していた。盗撮された女性は、短いショートパンツにひざ下までのブーツ姿だった。
「ひざ裏からふくらはぎに興味がある。芸術のため。脚が芸術美。
残しておこう、見返すかもと思い、動画を撮影しました」
女性検察官が問い詰める。
――なぜ相手のオーケーを取らなかったのですか?
「テレビなどで撮影するとき、オーケーを取りますか」
裁判官から、被告人の発言にストップがかかる。
「被告人は質問されている立場です。逆に質問するのは止めてください」
――カメラがどちらに向いていたか分かりますか?
「いいえ」
――後ろにいた男性から声をかけられて逃げましたよね。どうしてですか?
「悪いことをしたと相手から言われたので」
――悪いことをしてないのなら、逃げる必要ないじゃないですか?
「その時のことは、よく覚えていません」
「逃げる時に、携帯電話を
捨てたのはなぜですか?」
――逃げる時に携帯を捨てましたよね。なぜですか?
「動画を捨てたかったから。残したらまずい、と」
――どうして?
「その時はそう思ったんだと思います」
――(盗撮を)止めたいと思ったことは?
「あります」
――なぜですか?
「意味がないから、と」
――相手が不快に感じるかも、とは思わなかったのですか?
「……」
被告人が、女性の脚に興味を持ち始めたのは中高生頃から。盗撮を始めたのは2年前から。撮影したのは30回くらい、だという。
被告人は、弁護士からの質問には雄弁に答えた。
「(脚やひざ裏は)隠していない部分なので問題ないと思った。
後ろの男性から声をかけられた。肩を叩かれて、何を撮ってるの、と。
右ひじをつかまれたので、ふりほどいて立ち去った。殴られるかもとも思った。
追いかけてきて、ちょっと怖かった」
「被害者の気持ちを、
考えたことはありますか?」
続いて裁判官も尋問する。
――脚のどこが芸術的ですか? きれいだと思いますか?
「バランスと言いますか…」
――前側とか後ろ側とかのこだわりはありますか?
「ありません」
――画面を見ないで片手で撮ると手ぶれしますよね。
「はい」
――手ぶれしないように、画面を見ながら両手で撮影しようと思わなかったのですか? そうしない理由は?
「目で見たときと違う映像が見たかった」
――撮影していると周囲から分からないように、そういう方法を取ったのではないですか?
「……」
――被害者の気持ちを考えたことはありますか?
撮影されて嫌な気持ちになるとは思いませんでしたか?
「……」
――被告人の携帯に永久に保存されることを、嫌がるとは思いませんでしたか?
「……」
質問には無言か、聞き取れない小さな声でぼそぼそと。
その後も傍聴したかったのだが、所用がありフォローできなかった。
前科3犯の63歳男性は
「スリルと興奮を味わいたくて」
63歳の男性被告は前科3犯で、いずれも盗撮。
「スリルと性的興奮を味わいたくて行った犯行」と供述した。
男性検察官が、強い口調で被告人を追及する。
「電車の中で見かけて、ずっと後をついていった、と。被害者は気持ち悪くて、怖いですよ。そりゃ、示談に応じないはずですよ。
被害者は、(盗撮を)素直に認めてくれたら、その場で収めようと思ってたらしいんですよ。でも逃げようとしたから通報した、と」
また黒縁メガネの男性は、被告人席で真っ赤な顔でうなだれていた。
公園で3人の女子高生を見かけて、追いかけてコンビニへ。
腕時計型のカメラをショルダーバッグに固定して、後ろからスカートの下の床に置いて盗撮した。
執行猶予中の犯行だったが、「(事件から)時間が経って、ばれなかったらいいと思ってしまいました」
被告人の携帯には、
14人もの被害者の画像が……
携帯電話を使った盗撮は、しばしば新たな証拠が発見される。画像が記録されているからだ。ただ被害者が特定されることは、めったにない。
ビジネスマン風の実直そうな中年男性は、手芸用品店で女性(43歳)の後方からワンピースの下に携帯電話を差し入れて撮影し、逮捕された。
携帯電話の記録から、わずか1か月間に氏名不詳14人の女性のスカート内を撮影した画像が見つかった。
判決は、懲役1年執行猶予3年。
「顕著な常習性が見られ、罰金刑が妥当だとは思われない。ただ、前科がなく、被害女性に慰謝料を支払っている」と。
執行猶予付きの判決を下した場合、裁判官は被告人に説明する。
「今回は執行猶予判決ですので、ただちに刑務所に行くことはありません。また期間が終わっても、新たに犯罪を犯した場合は、実刑の可能性が高くなります。
今回が最後のチャンスだと思って、間違いを繰り返さないように」
男性は、執行猶予判決に安堵した表情を見せた。
そして、裁判官、検察官、弁護士に、丁寧に一礼した。
「もう二度と盗撮はしない」と決意しているように感じられたのだが……。