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青山泰の裁判リポート 第18回 36歳ニート息子を刺殺した父親の悔恨。
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法廷に現れた大橋明夫被告(仮名・犯行当時60歳)は、丸刈り頭でスーツにネクタイ姿。
小柄だががっちりした体型で、落ち着いた初老男性に見えた。
罪名は殺人罪。
東京都葛飾区の自宅で、同居していた息子の大橋雅彦さん(仮名・36歳)と口論になり、包丁で左胸を刺して殺害したのだ。
妻から小遣いをもらっている
息子に「しょうがないな」と。
2年前の犯行当時、大橋被告は妻と雅彦さんの3人で暮らし。
60歳で会社を定年退職したばかりだった。
妻から小遣いを受け取っている息子を「しょうがないな」と戒め、「てめえに言われなくない、仕事もしてねえくせに」と反論されて、包丁を持ってきた。
被害者は「やれるものならやってみろ。俺を殺すのか、勝てると思うのか」と言った、という。
妻が「やめて」と引き離そうとしたが、被告人にはその後の記憶がない。
刃先16㎝の出刃包丁で雅彦さんの左胸を刺した。深さは10㎝にも達していて、心臓と肝臓を貫通。
妻が119番通報し、雅彦さんは病院に搬送されたが、死亡が確認された。死因は失血死。
取り調べでは「金を無心されて口論になった。身の危険を感じて刺した。私が刺したことに間違いない」と。
SNS上では、父親に
同情する意見が飛び交った。
この事件を巡っては、SNS上でさまざまな意見が噴出した。
被告人に同情する声が圧倒的に多かった。
36歳の息子が定職についてなく、親から小遣いをもらっていたからだ。
被害者の暴力で、事件の1年前に祖母が家を出ていた。
また近隣住民ともトラブルを起こしていた、という。
被害者は統合失調症を患っていた。
SNS上での意見は、辛辣だった。
≪これ絶対、お父さん悪くないと思う≫
≪どこかに相談するっていったって、家庭のことは他人が踏み込めないからね。
このお父さんだって、息子と今まで何度も話し合いはしてきたと思うよ。
もうどうしようもなかったんじゃないかな≫
≪お父さん、これまでも散々我慢してきたんだろうな。
きっと壮絶な日々があってこと。こういう事件があると胸が痛い≫
裁判で、検察官は被告人の強い殺意を主張した。
「出刃包丁で左胸を刺して、心臓と肝臓を貫通している。
殺意があるのは明らかで、過剰防衛は成立しない。
自分を守るためと主張しているが、危険が差し迫っていたのか。
外の方法も考えられたはず。
被害者は、何の凶器も
持っていなかった。
公判で『息子に肩をつかまれた』と突然主張したが、たとえあったとしても、包丁を持った被告人から身を守るためといえる。
被害者は何の凶器も持っていなかった。
妻の『よくわからない』という証言は不自然、不合理で信用できない。
被告人は、被害者から日常的に暴力を受けていたわけではない。
最後に暴力をふるわれたのは被害者が中学生の頃の20年前。
逮捕直後に『カッとなって刺した』と話している。
強固な殺意があったといえる。結果は重大。
被告人が大変な苦労をしたことは認められる。
しかしこの事件は、介護疲れの案件とは違う。
『将来を悲観して』と主張するが、家庭内暴力もない」
検察官の求刑は懲役10年。
「少しでも家族との
時間を持ちたかった」
大橋被告は、「重大な犯罪をしたので、刑務所に行って罪を償うのが当然だと思っています。
保釈請求をしたのは、実刑を覚悟していたので、少しでも家族との時間を持ちたかったから。
このような重大な事件を起こしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
と反省の言葉を口にして、深く頭を下げた。
被告人の弁明に、涙を浮かべていた女性裁判員の姿も。
弁護側は、被告人の情状酌量減刑を主張した。
「被告人は、逮捕されてから2年間拘置所にいる。執行猶予判決が妥当」
SNS上では、被告人に同情する意見が、息子を辛辣に非難する声に拡大した。
≪無罪でいいよ、父親よくやった≫
≪産廃(産業廃棄物)を自分で処理した立派な方≫
≪今年、定年退職。36歳にもなった無職の息子から金せびられたら、そりゃキレるわ≫
≪これは無罪だろ。社会のゴミを排除しただけ≫
≪刺したくなる気持ちわかるわ、36歳無職って≫
「もう一度、自分を
見つめ直してほしい」
判決は懲役6年6か月。
判決の後、裁判官は被告人に声をかけた。
「自分をもう一度見つめなおしてほしい。なぜこんなことになってしまったのか。
それだけは忘れないでほしい」
確かに36歳になって仕事をせず、親にお金を無心する息子は、非難されても仕方ないのかもしれない。しかし被害者だけを責めても、このような問題は解決しない。
なぜなら息子が自分自身の努力や意志だけでは、現状を打開できなかった可能性もあるからだ。
被害者とその家族には、第三者による援助やケアが必要だったのに、サポートが届かなかった側面もあるのではないか。
また被害者がニートだったことと、今回の事件は区別して考えないといけない、と思う。
「殺されても仕方ない」人間など、いないはずだから。
息子を殺害してしまった大橋被告の言葉が忘れられない。
「ずっと息子の冥福を祈り続けていました。
さぞ無念だっただろうな、ごめんな、という気持ちでいっぱいです」