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青山泰の裁判リポート 第24回 明治20年創業の寿司店を廃業に追い込んだ五代目店主の性犯罪
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起訴された罪名は不同意性交罪だった。
高松洋貴被告(仮名・38歳)は、うつむいて小さな声で「間違いありません」と犯行を認めた。
被告人は、老舗寿司店『都寿司』の店主だった。
明治20年に東京都の水天宮前で創業し、ミシュランで星を獲得した有名店だ。
高松被告は高校卒業後、山形県から寿司職人として上京し、15年前に婿入り。3年前に先代が死去して、五代目店主となった。
背が高くスリムな体型で、サイドを刈り上げた清潔感のある短髪。
黒スーツに白シャツ、紺のネクタイ姿で、背筋が伸びた立ち姿が凛々しい印象だった。
「一杯どう?」と
20代女性に声をかけた
「一杯どう? 一杯だけだから。明日は仕事?」
2024年5月10日午後11時半、高松被告は東京都中央区の路上でAさん(20代女性)に声をかけた。自宅から歩いて5分の場所だ。
Aさんは「嫌です」と断り続けたが、高松被告は肩に手を回し、手を握って近くのマンション敷地内に連れ込んだ。
恐怖を感じて拒絶したAさんを、壁に背を押しつけてキス。
「帰る、やめて」「誰か助けて」と、嫌がって助けを求めたAさんをしゃがませて、口腔性交させた。
その後、立ち上がらせて背中に手を回し、腰を押さえつけて性交した。
帰宅して泣いているAさんに兄が気づき、110番通報。
鑑定で、被告人のDNAと被害者の膣内のDNAが一致した。
「人生のすべてが変わった。
出会いたくなかった」
法廷で、Aさんの意見書が代読された。
「私のとって非常につらく、忘れがたいことでした。
人生のすべてが変わってしまった。
生涯、この気持ちを抱えていくのかと、耐えがたい思いです。
この気持ちを言葉にすることはできません。思い出したくもない。
誰かに相談できることではない。
パートナーにも両親にも話していません。
思い出すと、今でも胸が苦しくなります。あの事件以来、不安や恐怖を感じることが多くなった。対処方法が分からない。理由なく涙が出ることも。
生活を楽しむことができなくなりました。旅行もできない。
被告人に対しては許せない気持ちでいっぱいで、思い出したくもない。
過去に同じような事件を起こしていたと知って、とんでもない人だと思った。
人生で出会いたくなかった。
心の傷が消えることは一生ない。頭の中から事件のことを消し去りたい。
犯人には、できることなら一生刑務所から出てきてほしくありません。
私一人の人生を壊しただけでなく、被告人の家族や従業員の人生まで変えてしまった。周りの人たちを幻滅させてしまったことを反省してほしい」
DNA鑑定で、10年前の
強姦未遂事件も発覚した
高松被告が逮捕されてから、DNA鑑定で10年前の強姦未遂事件が判明した。
声をかけた30代の女性のワンピースの裾から手を入れて、陰部を触ったのだ。
200万円の示談金を支払い、最終的には起訴猶予に。
高松被告への質問が始まった。
一流寿司店の店主らしく、きびきびとした仕草と動作。しっかりした受け答えで、爽やかな印象さえ受けた。
――3年前に店主になって、プレッシャーはありましたか?
「ありました。歴史のあるお店なので」
――犯行当日の行動は?
「その日は仕事が終わって寿司屋で飲みました。駅近くに行ったが、金曜日だったのでお店に入れず、コンビニで缶ビールを買って、一緒に飲む女性を探しました」
家への帰り道に一緒に飲みたいなと、3人の女性に声をかけたが、冷笑された。
その後、Aさんに声をかけた。
「もう帰るの? もう一杯どう?」と。
粘り強くお願いしたらもしかしたら、とアプローチしたが、
「もうお疲れた。帰る。飲んじゃったから」と断られた。
――あきらめて帰らなかったのですか?
「はい」
「性欲が抑えられなく
なって。ムラムラして…」
その後もAさんの肩に手を回して、声をかけ続けた。
手で抵抗されたが、胸を触った。
Aさんは嫌がっていたが、キスをして、口腔性交させた。
そして壁に手をつけさせて、背後から挿入。
「性欲が抑えられなくなって、ムラムラして。
相手の気持ちを考えてあげられなかった」
――コンドームは?
「してません」
――射精したんですか?
「してません。相手の顔を見た時に罪悪感が。
被害者が助けを求めていたので、誰かが来たらという恐怖も。
のれんを絶やさないために、
営業を続けていたが…
夫が性加害者として逮捕された時、妻はどれほど驚いただろうか。
どのような思いで、公判までの時間を過ごしてきたのだろうか。
同じ女性として、被害者の心情は痛いほど分かるはずだ。
そして、2人の子どもたちには、事件のことをどう説明したのだろか。
たくさんの誹謗中傷も浴びたはずだが、高松被告が逮捕された後も、妻と先代の妻は、気丈に店を続けていた。
137年間繋いてきた老舗ののれんを絶やしたくないという思いだったのだろう。
しかし、従業員が退職したこともあり、事件の3か月後に閉店。
そして、妻は高松被告とも離婚した。
公判の途中から、被告人の姓が旧姓に変更された。
高松被告は保釈後、山形の実家暮らしを続けていたが、離婚した後も左手薬指に結婚指輪をつけたまま裁判に臨んでいた。
「私にとって、夫は
かけがえのない人です」
証人として、証言台に立った元妻は、被害者に対して謝罪した。
「被害者の方には、なんとお詫びしたらよいかわかりません。心の傷が癒えることを願うばかりです。このたびは本当に申し訳ありませんでした」
「私は離婚したくなかったが、実家に住み続けるには離婚が条件だと母に言われて」
――将来は、また結婚するつもりですか?
「形式にはこだわっていません。
絶縁と言う選択は、私の中にはありません。
更生してほしい。
一人にしておけないという気持ちがある。
被害者も加害者も出しちゃいけない。
(泣きながら)私にとって、夫はかけがえのない人です」
――家族として支えていきたいということですか?
「はい。
監督しなきゃいけないと考えるようになりました。
今まではそんなことするはずがない、父親なんだから、と思い込んでいました。
10年前にも同じようなことがあったのに、夫の変化に私は気づかなくて。
もう2度とこのような思いはしたくない」
「私の行動で、たくさんの
誹謗中傷を浴びました」
高松被告に対して、被告人質問が続く。
――あなたの犯行のせいで100年以上続いたお寿司屋さんをたたむことになりましたが。
「先代やお義母さんには優しく育ててもらいました。
ご恩をこういった形で……代々積み上げてこられた信用も、信頼も、歴史も……のれんを取り下げることになってしまいました。
私の身勝手な行動で、たくさんの誹謗中傷を浴びました。
マイナスからのスタートになると思います。先代にお線香をあげされてもらいたいです。
ご期待に添えられるような人格者になれなくて、本当に申し訳ないです」
――別れた奥さんは、また一緒に生活したいと言ってくれています。どう思いますか?
被告は無言でうつむいたまま。
傍聴席の元妻はじっと下を向いて、ハンカチを握りしめて目頭を押さえている。
「原因が分からないのに、
なぜ2度としないと」
検察官や裁判官からも、高松被告に質問が続いた。
――お酒や病気が原因ではないと話しましたが、何が原因だと?
「それを見つけたいので、専門医の心療内科を受診しています」
――もう2度としないと言いましたが、原因がわからないのに、なぜそう言えるのですか?
「環境を変えて、行動パターンを変えます。一つひとつを改めて行動を考え直しました」
――示談しようとしたのは?
「誠意の一つだと。謝って済む問題ではありませんが」
――2度と罪を犯さないためには?
「夜一人でお酒を飲まない。逮捕後、お酒は一滴も飲んでいません。
声をかけたのは、寂しかった、誰かとお酒を飲みたかったから」
――なぜ友人や家族ではなかったのか?
「そういう選択肢は考えられませんでした」
――被害女性が、どういう気持ちでいるか考えていますか?
「怖いという気持ちだと。
私の行為で、明るく前向きだった人の生活を180度変えてしまいました。
すべて私が悪い」
――女性と飲みたいということと、こういう性的行為を起こすことには、大きな落差がありますが。
「自分の性欲をコントロールできませんでした
相手が嫌がっている気持ちを考えられなかった、配慮することができなかった」
「この法廷にいる全員が
『またするんじゃないか』と」
弁護士が、証人になった高松被告の実父に質問した。
――この法廷にいる全員が、またするんじゃないかと思っていると思いますが。
二度としないためにどう監督するつもりですか?
「ひとりにしないように。専門病院で治療しています。
治療が終わるまで、社会復帰できるまで、きちんと監督します」
高松被告は、賠償金600万円を支払い、被害者と合意書を交わした。
出所後5年間、東京23区内に立ち入らないと記載されている。
「被害者の方の傷が癒えないことは承知していますが、笑顔を少しずつ取り戻して欲しいという思いで。
(東京23区に入らないことについて)子どもに会いたいという気持ちはありますが、被害者さまのことを考えると……」
「被害者には、
何の落ち度もない」
検察官の求刑は懲役5年。
「悪質な犯行。繰り返し声をかけ、肩に手をかけてマンション敷地に連れ込み、明確に拒絶したにも関わらず、口腔性交、性交した。
性的自由の根幹が害された。被害者は計り知れない恐怖を感じ、今も夜一人で出歩けない。経緯、動機に酌量の余地はない。
大胆かつ凶悪な犯罪で、被害者には何の落ち度もない。
以前、陰部を触るという未遂事件を起こしていた」
弁護士は、執行猶予判決を求めた。
「衝動的な犯行で、計画性はない。
肩に手を回すなどしたが、凶器は持ってなく、脅迫などはしていない。
家族はもちろん、従業員や顧客にも多大な迷惑をかけた。被告人は深く反省している。
顔写真や実名が報道されて、社会的制裁を受けている。
初犯で、前科はない」
高松被告への判決は
懲役3年の実刑
2025年1月14日、判決言い渡し日。
証言台に向かう被告人は、傍聴席に向かって深く一礼した。
判決は懲役3年。
「被害者の人格や尊厳を顧みない行為で、精神的苦痛も大きい。計画性は認められないが、酌むべき事情はない。600万円の賠償金を支払い、被害者は『裁判所にゆだねる』と。
しかし実刑は免れない。
心療内科への通院を続けると。父と元妻が更生に協力を約束している」
高松被告は、直立して判決を聞いていた。
被告人の左手薬指には、すでに結婚指輪はなかった――。