【パパめが2】最強になった俺、女神と楽しく生きることに成功(8)
「おい、これはどういう事だ?」
ある晩、俺が宿の部屋に帰ると、お腹を大きくしたアストラエアがベッドで横になっていた。
幸せそうな表情で大きくなったお腹を撫でている。
「赤ちゃんが出来たみたい⋯⋯」
「それは分かるが⋯⋯。ちょっと早すぎるんじゃないか? 大きくなるのが。もはや臨月だろ、それは」
「そうなの? 私、女神だから分からない」
こいつの都合が悪いことは何でも分からなくなるのは今に始まったことじゃないが、とにかく、赤ちゃんが出来たようだった。
で、この世界に産婦人科はあるのか?
「産婦人科?」
アストラエアは何それ?美味しいの?とでも言いたげな顔だ。
「あー、まあ、赤ちゃんが無事に生まれるようにお産を助けるお医者さんのことだよ」
アストラエアはお腹を撫でながら
「私は女神だから、天使が来て、祝福したら、聖なる輝きの中で子供が誕生するに違いないわ⋯⋯」
「あー、ダメだこりゃ⋯⋯」
俺は宿の番頭の娘さんに聞きに行くことにした。
階段を降り、フロントのベルを鳴らし、番頭の娘さんを呼ぶ。
「はいはい、どうしたの?」
と言いながら、娘さんは奥の部屋から出てきた。
「すみません、この辺に産婦人科のお医者さんはいますか?」
娘さんは怪訝な表情をする。
「産婦人科?」
「あのー、もう生まれそうなんですけど」
「え?」
「えっ? ええ!?」
番頭の娘さんは口に手を当てて驚いた声を出す。
「と、とりあえずお医者さんですね! 分かりました! すぐに呼んできます!」
「⋯⋯」
まあ、すぐに生まれそうというわけではないが、お医者さんに来てもらう方がいいだろう。
俺は自室に戻って、もう一度アストラエアを見る。
(俺の子⋯⋯、だよな⋯⋯)
にしても、早すぎないか?
アストラエアは相変わらず大きくなったお腹を撫でている。
「赤ちゃん⋯⋯。私の⋯⋯、赤ちゃん⋯⋯」
あーあー、ダメだこりゃ。話が出来る状態じゃない。
どうする? そもそも、人間の俺と、女神のアストラエアの間で子供は生まれないんじゃなかったのか? いや、そんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくはないが、とりあえず赤ちゃんが無事に生まれることが大事だ。
トントントン
ドアがノックされ、俺はドアを開けた。近所の知り合いのドクターが来てくれた。
ドクターはポカンと口を開け、診療キットを床に落とした。床にドスンと落ち、ガチャガチャと音を立てて転がり出る診療道具⋯⋯。
「め⋯⋯、女神様が⋯⋯、妊娠してる⋯⋯」
あー、やっぱり大変なことなんですよね。分かった、分かりました。俺は大変なことをしてしまったよ。
「と、とりあえず⋯⋯、聴診器。聴診器⋯⋯」
首に掛けた聴診器を、アストラエアのお腹に当てるドクター。
しばらくすると、驚愕に目を見開いて、告げる。
「う⋯⋯生まれます。もう間もなく、生まれます⋯⋯」
そうか、生まれるのか。生まれる、生まれる⋯⋯。何が産まれてくるんだろう。モンスターじゃないよな⋯⋯。
もしかして、この前のダンジョンで何かの魔物の卵でも植え付けられたんじゃあないだろうか。
俺は気掛かりな気持ちで、アストラエアから何かが産まれてくるのを待つことにした。