パパ活してたら間違って異世界に召喚されてお詫びとして女神とパパ活してたら人類最強になっていた件(10)
この異世界で猫を飼うのは貴族ぐらいのものだ。平民はそこかしこにいる野良猫に適当に餌をやって可愛がっている。迷い猫の捜索が難航するのは、このそこかしこにいる野良猫が原因だ。
「ふんふんふーん♪」
アストラエアは鼻歌交じりに街路を歩いている。
「なんだ? ウンコか?」
確かにそこら中に犬やら猫やらの糞が転がってはいるが⋯⋯。
「ちっがーう! 楽しくて歌ってるの!」
「猫の捜索に行くことの何が楽しいんだ⋯⋯」
「楽しいわよ? こうやって毎日クエストを受けて達成して」
「まあ、確かに楽しい部分はあるが⋯⋯」
俺にとってはダンジョンに潜ってモンスターと戦っている方が楽しい。だが、楽しいという感情は人それぞれだ。こいつにとっては迷い猫を捜索して、人に感謝されるような依頼の方が楽しいのかもしれない。実に女神らしい考え方だ。
「さて、着いたぞ」
俺たちは大きな屋敷の前に着いた。周囲を高い塀に囲まれており侵入者を防ぐための忍び返しが塀の上に設置されている。正面には物々しい鉄製の門。貴族サマの屋敷というものは何故こうもステレオタイプなのか。
「何者だ!?」
門番らしき男が近付いて来て言った。
「あの、依頼を受けて来た者です」
「待ってろ、今、確認する」
⋯⋯屋敷の中に入っていった門番はなかなか戻ってこない。
確かに、こういう場所に来る時にアポイントメントを取らなかったのは不適切だったかもしれない。冒険者ギルドで依頼を受けて、きちんとアポイントメントを取ってから来るべきだったのだ。貴族サマと関わった経験なんてないから迂闊だったな。
「通ってよし。中で伯爵様がお待ちだ」
門番が戻ってきて俺たちを中に通す。
案内人らしい執事のような男が迎えに来た。そして、応接室のような部屋に連れて行かれ中で待つように言われた。
⋯⋯そういえば俺は、貴族と話すマナーなんて知らないな。大丈夫か?
異世界転生ものでよくある話だが、日本から転生したはずの主人公が、なぜか貴族の格式や作法に詳しい。天皇制しか無いはずの日本で、そんなことをどうやって学んだのかとツッコミたくなる。俺なぞは爵位の上下すら知らない。伯爵とはどれぐらいの家柄なんだ? これが、リアリティというものである。
「冒険者どの、お待たせした」
中世ヨーロッパにありそうな華美なタキシードを着た白髪の男が出てきた。
「こちらが、私どもの飼い猫の肖像画です。名はルナちゃんといいます」
意外と話が早い。
「はぁ、この猫を探せばいいんですね⋯⋯」
俺たちが見たその猫の絵には、赤い首輪を巻いた、黒い子猫が描かれていた。