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この上ない夜 

「たぶんいつか、この夜のことを思い出す」

帰り道、電車やタクシーの中でそう思うことがある。そして、そんな夜のことはたいてい本当に、ことあるごとに思い出す――。

 

バトンズの学校(batons writing college)の1期生としての時間が、たったいまひとつの区切りを迎えた。この1年足らずの時間は思った以上に心を揺さぶるものだったから、私は今夜、ついセンチメンタルになってしまう。

最初、自分の書くものにやたら自信があった私。

そして、自分の書くものが、決して特別ではないのだと知ってしまった私。

それでも、決して特別ではなくても、それでもやってみたいと強く思った私。…これが、バトンズの学校で打ちのめされたからこそ、最後にようやく出会えた本心だった。

実は私は昔からずっと、人にはものすごく得意なこと、いわゆる天職というものがあると思っていた。それは地面深くに埋まっている「最強の刀」みたいなもので、探すのは大変だが、一度掘り当てさえすれば、そこから自動的に人生を無双モードで生きていけるものだと思っていた。そして、私にとってその刀とはつまり「書くこと」なんだろうと信じていた。

違った。

私の「書く」は、最強ではなかった。私が一度手にして「最強かも」と自認した刀は、悲しいかな、けっこうあっさり折れる代物だった。

ああもうだったら、刀の原型になりそうな古びた部品を集めるのだ。そこらじゅうを歩きながら、あれやこれやをなんとかたくさん掘り出して、どうにか組み立てて。ひどく錆びた剣先も、丁寧に磨いて輝かせる。そうやっていつか「最強の刀」と呼べるものにするのだ。

正直それって、途方もない話。

だってどんなにやっても、結局最強の刀にならないという可能性は十分にある。そんな中で躍起になり続けるなんて、気持ち的にも途方もない作業だ。

だけれども。

私はその途方もない作業をしたい。書くことがいつかなんらかの形で私の「最強の刀」になりうるのなら、本当に、這ってでもいいからそうしたいのだ。

この1年が私にくれたのは、この途方もないかもしれないライターという道を、歩いていこうという決意だった。

 

今夜、赤坂で私たちは思い思いに語り合った。何回も何回もお互いの文章を読んでいる私たちは、ちょっと特別な人間関係の中にある。

たぶん、この場所からこれからも、いろいろなものが生まれるんじゃないか。それが、近い未来で私の日常をも照らしてくれるんじゃないか。

そんな希望に満ちた、この上ない夜。

きっとよく思い出すことになる、この上ない夜。

これからも書き続けます。ありがとうございました。 

【5.14帰り道。バトンズの学校卒業によせて】

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